その経営基盤の構築をどう進めていけばいいのでしょうか。

木村:DXとテクノロジーは切り離せませんから、まずテクノロジーの現時点での限界と、将来の可能性について進化のベクトルを理解できるケイパビリティ(組織能力)を持つことです。そして、テクノロジーを活用することで事業がどう変わっていくかについて、高感度のアンテナを持った人材・チームが必要となります。この2つが揃うことで、テクノロジーを活用した複数の変革シナリオをPoC(概念実証)的に少しずつ進め、常に数年先を見据えて最適な取り組みを取捨選択できるようになります。

 テクノロジーの限界と可能性を見極めるケイパビリティ、それを事業にどのように活かせるか、事業環境の変化を見極める高感度な人材・チーム、そして柔軟かつ、スピード感を持って変革シナリオを推進できるリーダーシップ。この3つの要素こそが、三位一体だと考えます。

島田三位一体を実現するには、日常的に深く踏み込んだコミュニケーションを通じて、互いの「言語」を理解し、距離を縮め、共通の価値観や感覚を共有できるレベルに達する必要があります。それによって、ビジネス部門はテクノロジーの限界と可能性を理解できるようになり、IT・デジタル部門は真のビジネスニーズを把握できるようになります。

 我々あずさ監査法人のデジタルアドバイザリーサービスも、まさに三位一体の態勢で、クライアントのDXを支援しています。私が所属するDigital Advisory事業部と、会計士やIT・デジタルの専門家、データサイエンティストなど多様な専門家が集まる宇宿のDigital Innovation事業部は、物理的にも心理的にも日常的に密なコミュニケーションを重ねており、木村が経営者の視点でDigital Innovation & Assurance統轄事業部を束ねています。

宇宿三位一体を達成するためには、経営の視点を理解したうえで、ビジネス現場とテクノロジー部門の対話において「トランスレーター」(翻訳者)の役割を担える人材が初期段階で必要です。ビジネス部門出身でもテクノロジー部門出身でもかまいませんが、そうした人材を育成することが三位一体実現の準備として重要だと考えます。

木村企業がDXに取り組む際、経営者直属のDX推進チームを組成するケースが見られますが、時にビジネスの担い手となる部門から独立した別の組織になっています。その結果、現場間のコミュニケーションが取れていないケースや、予算編成、施策の実行などで摩擦が発生することで肝心のDXが停滞し、あるいは妥協の産物となってしまいがちです。我々がクライアント企業のDX推進を戦略から実行までトータルで支援する組織を立ち上げるに当たって工夫したのは、Digital Advisory事業部のビジネス視点とDigital Innovation事業部のテクノロジー視点を組織の壁を意識することなく、日常的に掛け合わせることができる環境を、これら事業部を統括する一つの組織の中につくったことです。

 宇宿のDigital Innovation事業部は、あずさ監査法人全体のR&D部隊であり、我々の本丸であるアシュアランス(監査)部門とも一体となって、監査の未来を切り拓くミッションを担っています。そのため、テクノロジーの可能性と限界の見極めを含めて多彩なケイパビリティを構築できています。そのうえで、コンサルティング部隊であるアドバイザリー部門とも密に連携し、サービスの品質や提供価値を高めています。このような大きな戦略の下に組成されたハイブリッド型組織であり、メインストリーム事業を巻き込んだDXを推進しています。