こうした技術の裏には、現場で培われた強固なノウハウがある。生産技術、品質管理、設備保全が総合的に発揮され、外部には容易にまねできない競争力を生み出している。

 一方で、歴史の中では水俣病という痛ましい公害問題にも直面した。水俣病の原因企業であるチッソ株式会社(以下、チッソ)の事業部門を引き継ぎ、チッソグループの中核事業会社として設立された経緯がある。浅野社長は「おわびの気持ちしかありません。認定された方々への補償はチッソが補償協定に基づき継続して実施しております」と真摯に語る。

 JNCは、自社の技術を生かし持続可能な社会の実現に取り組みながら、安定的な事業運営を通じ、企業価値を高めるとともに、チッソが水俣病認定患者への継続補償などを行うために必要な配当を行う役割も担っている。

 こうした背景はあるが、持続的な地域経済の発展や地域振興・交流にJNCは積極的だ。熊本県を中心に13の水力発電所を運営し、水俣製造所のエネルギーを100%ノンカーボン化するとともに、余剰電力は電力会社を通じて一部水俣市に供給され、持続可能な地域社会を支えている。「水俣の海がきれいになったことを示すため、水俣市では美しい海に生息するタツノオトシゴをモチーフにした『ヒメタツバッジ』が作られました」と浅野社長。胸元には、再生と共生の証しともいえるバッジが輝いていた。

 さらに、地域行事への参加やインターンシップ受け入れを通じて若い世代との交流を図っている。水俣市に拠点を構える女子プロサッカーチームへのサポートを行うとともに、一部の選手を社員として採用するなど、選手が地域で安心して暮らすための支援を行うことで、スポーツを通じた地域活性化にも積極的に取り組んでいる。

 2025年は「Think & Act 2030 NEXT」を掲げ、天然由来の原料から製造される環境負荷の低い医薬製造工程向け製品や食品保存料などを扱うライフケミカル、コンタクトレンズの樹脂添加剤などに用いられ、近年ではPFAS(有機フッ素化合物)代替などでも注目を集めているシリコーン、生分解性樹脂による被覆肥料など環境配慮型製品の開発も進めるアグリ事業を戦略的拡大事業と位置付ける。

 基幹事業が稼ぐ収益を新分野に投資し、成長と安定を両立させる方針だ。30年には経常利益200億円、営業利益率15%を目指し、その先に上場を見据えている。