「経済が多様化していないため、自立できるまでに時間を要する」。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のオットー・スベンドセン研究員はこう指摘した。グリーンランド自治政府はこれから「長足の進歩」を遂げなければいけないと、同氏は言う。

 グリーンランドの人口5万7000人は、世界有数の厳しい環境にある領土の沿岸地域にまばらに広がり、島の80%が氷に覆われている。生活水準はまちまちだ。中心都市ヌークでは、住民がゴルフをプレーしたり、高級タイ料理を楽しんだりできる。遠隔地の小さな集落では平均賃金が50%低い。人々は氷の塊を切り出し、溶かして入浴する。メキシコの国土よりわずかに広い同島には、舗装道路が160キロ足らずしかない。

 生活に深く根ざすデンマークへの依存がこれを支える。グリーンランドの労働人口の約40%はデンマークに雇用されている。デンマークの交付する補助金が、グリーンランド自治政府の歳入の約半分を占め、GDPの20%を生み出している。デンマークはさらに警察や裁判所、銀行規制当局の費用を負担し、世界有数の遠隔地にある集落にほぼ無料の医療を提供し、外交を取り仕切り、防衛費を拠出している。

 これは年間10億ドル強に相当すると、グリーンランド経済評議会のトーベン・アンデルセン議長は述べた。もしそれが一夜で消えれば「劇的なことになる」と同氏は語った。

 仮に米国がデンマークの補助金を引き受ければ、それだけでグリーンランド住民は、アラスカや首都ワシントンの居住者を抜き、米国の連邦補助金の1人当たり受取額が最高となる。

 トランプ政権は同島を購入したいと申し出たが、グリーンランド自治政府は売り物ではないと述べている。米政府当局者は、グリーンランド住民を味方につけるため、一時金を直接支給することを検討している。

 またグリーンランドがデンマークから独立し、米国の優先的アクセスと引き換えに、米国から運営費の一部支払いを受ける案も浮上している。

 デンマークがグリーンランドに支払う年間約10億ドルに匹敵する支援を提供するには、米国は1人当たり約1万7500ドル相当を出す必要がある。

 トランプ氏は、もし米国がグリーンランドを併合しなければ、中国かロシアの手に落ちる可能性があると主張している。だがデンマーク当局者は、中国はほとんど関心を示さず、ロシアは、ウクライナで軍が身動き取れない状況のため、グリーンランド付近に海軍資産を持ち込むことはまずないと話している。

 たとえ相違点はあるにせよ、「われわれは米国の利益とグリーンランドの利益の双方に対応できると思う」。グリーンランドのビジネス・鉱物資源相であるナージャ・ナタニエルセン氏は13日、英ロンドンでこう述べた。グリーンランドが中国の投資を呼び込む考えであることは否定し、自治政府は「似た考えを持つ」国々と協力し、自治拡大に伴ってデンマークの補助金への依存を徐々に減らしたいと述べた。「これは短距離走ではない。マラソンだ」

 グリーンランドはこの10年間、デンマークの補助金とインフラ投資、世界的なオヒョウ・タラ・エビの価格上昇のおかげで緩やかな経済成長を維持してきた。ヌークの新国際空港などの建設ブームも起きていた。

 こうした好景気は終わりに向かっている。デンマーク中央銀行によると、グリーンランドの経済成長率は2024年が0.8%、25年は0.2%だった。減速の一因は、エビの漁獲量減少と価格下落だ。海水温の上昇がエビの繁殖に影響を与えている。一方で、エビを食べるタラの個体数は増加している。

 大型エビトロール船を運営するヌークの漁業会社で働くイエンス・フレデリクセンさんは、ヌークと他の沿岸地域では人々の受け止め方が違うと述べた。

 「沿岸部では生活水準がはるかに低い。だから米国の提案を肯定的に捉えるかもしれない。プラスの変化が起きる可能性があるから」とフレデリクセンさんは述べた。彼自身もトランプ氏の申し出を聞いてみたいという。

 今のところ、そうした見方は少数派のようだ。世論調査では一貫してグリーンランドの住民の大多数が、米国の一部になりたくないと考えていることが分かる。彼らはまた、米国がもたらす不透明な未来を優先して、デンマークの手厚い社会福祉制度を手放すことには慎重なのかもしれない。

 デンマーク中銀は今月、グリーンランドの公的財政の「驚くほど急激な悪化」に警告を発した。長期的にみれば、グリーンランドは人口高齢化や頭脳流出(教育を受けた住民がデンマークでキャリアを追求するため)といった多くの西側諸国が抱えている課題に直面する。これが労働人口2万9000人の島の労働力不足を悪化させるリスクがあり、それを埋めるためにアジア(特にフィリピン)からの移民流入が起きている。

 一方で、グリーンランドには明らかに潜在力がある。氷の下の鉱物資源を利用できるかどうかにその多くがかかっていると、経済学者のアンデルセン氏は指摘する。グリーンランドには現在、稼働中の鉱山が1カ所しかない。「過去20年間、多くの案が検討されたものの、ビジネスケース(事業計画)が立てられずに頓挫してきた」と同氏は言う。

 グリーンランドで鉱山を建設するとなれば、多くの場合、道路や港湾を建設することになる。数が少なく採用が難しい労働者のために、住宅や診療所、生活を便利にする施設も建てる必要がある。極寒の気候のため、1年のうち相当な期間は鉱山にアクセスできない可能性がある。

 グリーンランド自治政府は全ての鉱物資源を所有し、その権利を持っている。2021年には石油・ガス探査許可の発行を停止した。また、ウラン鉱床の開発も禁止した。

 ヌーク近郊の発電所拡張や新たな水力発電所の建設など、今後予定される投資がグリーンランド経済を浮揚させる効果があるかもしれない。計画が実現すれば、データセンター誘致に向けた安価なエネルギーを提供できる。米ニュージャージー州ニューアーク空港からヌークへの直行便が現在、1年のうち一定の時期に運航されるなど、観光促進の取り組みも続いている。グリーンランドはアイスランドの成功を手本にして、観光・漁業・安いエネルギーの組み合わせでテック企業を呼び込みたい考えだと、一部のアナリストはみている。

 経済的コストに関係なく、トランプ政権が思いとどまる可能性は低いと、CSISのスベンドセン氏は述べた。トランプ氏は米国を大きくすることを望んでいるだけだと、同氏は結論づけている。「領土拡張が目的だという結論に達するのは容易だ」

(The Wall Street Journal/Max Colchester | Photography by Oscar Scott Carl for WSJ)

※この記事はWSJにて2026年1月19日 05:28 JSTに配信されたものです。

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