ゴミ捨て場から拾ったぼろきれを、
トップデザイナーが使う理由とは?
フィリピンのトンド地区を離れた数日後、フォート・ボニフォシオへ向かった。ここはスラムとは別世界だ。大型のショッピングモールに、有名ブランド店がひしめく富裕層のための商業地区である。整備された緑豊かな公園を通ると、ジャズの生演奏が聞こえてくる。洒落たアーケードの一角に、「エコストア」というオーガニック化粧品や雑貨を扱う店舗があった。
ラグトゥリッチのポーチ拡大画像表示
店内に入り、シンプルな青いポーチを手に取る。説明書きには、ラホ・ラウレルがデザインしたとある。彼は、アンジェリーナ・ジョリーのドレスをデザインしたこともある、フィリピンのトップデザイナーだ。
目に見えるものすべてが貧しさとは無縁であるはずのこの地区で、世界に名だたるデザイナーがデザインしたポーチは、驚いたことに、「ゴミ」でつくられていた。スラムに暮らす女性たちが、ゴミ捨て場から拾ったぼろきれでできていたのだ。それをいったんほどき、洗い、編み直したものだという。
この商品は、フィリピンのソーシャル企業、ラグトゥリッチ(Rags2Riches)社によるものだ。同社はスラムに暮らす女性800人を訓練し、ポーチやバッグ作りを可能にすることで、彼女たちの自立支援をしている。
ポーチのサイズは2種類あり、小さいものは230ペソ(約460円)、大きいものは495ペソ(約1000円)だ。
スラムでゴミ拾いをしていた青年は、朝6時から夜6時まで働いて、稼ぎが60ペソ(120円)だと言っていた。その収入で妻と子ども2人を養っている。この金額ではすべて食費に消えてしまい、教育費はもちろん、病気になった時の医療費を賄うことはできない。
ゴミ拾いによる収入に比べると、このポーチから得られるのは、はるかに大きい金額だ。同じ「ゴミ」を売る行為でも、優れたデザインを加えることで、何倍もの価値が生まれるのである。ちなみに、このブランドの扱うもっとも高額な商品は12,500ペソ(約2万5000円)だった。
こうした廃材を素材に製品をデザインする試みは、ラグトゥリッチ社だけでなく、企業やNGOが、まるで競うように行っている。エコストアには、ジュースの容器、新聞紙、シールの台紙、旗、ココナッツの殻など、ゴミの山に埋まっていたはずのそれが、装いを変えて、澄ました顔で棚に陳列されていた。いずれも単価は数百~数千ペソ(数百~数千円)の範囲だった。
デザイナーがゴミから可能性を引きだすことで、ものづくりは貧困層のための「仕事」となるのである。



