日本産業を語るうえで欠かせない、〈ものづくり〉という言葉。だが、いつからかこの言葉は本来の力を失ってはいないだろうか? 大量に廃棄されることを前提とした〈ものづくり〉に、使い手である消費者だけでなく、作り手である生産者すらも疲弊している。取材していても、そんな姿を、いたるところで見かける。
そこで本連載では、問題解決型ものづくりである「ソーシャル・ファブリケーション」の世界を、様々な側面から紹介していきたい。これは新しい〈ものづくり〉の潮流の一つである。注目してほしいのは、作り手と使い手の生き生きとした表情だ。
第1回の今回は、メーカー勤務時代に「きれいなゴミを生み出しているだけなんじゃないか?」という葛藤を抱えたあるデザイナーにスポットライトを当てる。彼女が再び〈ものづくり〉と向き合い、社会課題に立ち向かっていく過程を通して、〈ものづくり〉が本来持っている「人と人とをつなぐ」という力を感じてほしい。

自分がつくっている〈もの〉に、意味はあるのか?
――あるデザイナーが直面した〈ものづくり〉のジレンマ

「はじめは、お店の棚に、自分がつくった製品が並ぶことが嬉しかったんです」

 株式会社andu amet(アンドゥアメット)の代表であり、デザイナーでもある鮫島弘子は、かつて化粧品のメーカーで働いていたとき、このように感じていたという。

「でも、3年ほど経つと、疑問を持つようになりました。『10個の口紅を持っている人のために、11個目の口紅をつくるのに意味はあるのか』『きれいなゴミを生み出しているだけなんじゃないか』って」

 葛藤を抱えた彼女は仕事を辞め、青年海外協力隊員としてアフリカに赴く。その後さまざまな経験を積み、2012年2月に株式会社andu ametを設立した。

 andu ametの事業内容は、世界最高峰の羊皮であるエチオピアンシープスキンを使用した“エシカル×リュクス”なレザー製品の製造・販売だ。企画・素材調達・製造・販売という事業プロセスにおいてエシカル(倫理的であること)を追求し、製品はリュクス(優雅さ・上品さ)の高みを目指す。インフラが未発達であるエチオピアでビジネスを構築し、着実に実績を出している点が評価され、2013年6月24日には、日本政策投資銀行による〈女性新ビジネスプランコンペティション〉でHigh-spirits賞を受賞している。

エチオピアの工房で、現地の職人と打ち合わせをする鮫島弘子
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 本連載のテーマは〈ソーシャル・ファブリケーション〉である。これは、慶應義塾大学の田中浩也准教授による呼称で「ものづくりを通じて、社会課題を自分ごと、自分たちのこととして解決していく」という概念だ。第一回は、andu ametの事業を例にとりながら、問題解決型ものづくりの世界を紹介していきたい。