「ものづくり」において、アイデアや設計図は、その製品の命であり、公にするものではない――。こうした「常識」に反するかのように、すべてのリソースをオープンにし、しかも世界各国でイノベーションを生み出している国際的な実験工房のネットワーク、「ファブラボ」。2013年3月にはオバマが自らの政策に取り入れるなど、教育やイノベーションの面での可能性は計り知れない。
今回は、問題解決型ものづくり「ソーシャル・ファブリケーション」を体現する存在とも言えるファブラボのうち、日本で最初に生まれたファブラボ鎌倉と、そこで一人の革職人が生み出したアイデアが国境を超えて広がっていくストーリーを通して、オープンソースとイノベーションの関わりを探る。
なぜ、オバマはファブラボを重要視するのか?
「創造性の教育」としてのファブラボ
2013年3月、米国のオバマ政権は「NFNL(National Fab Lab Network)」の設立を宣言した。NFNLは、市民のための実験工房であるファブラボ(Fablab)を、10年以内に70万人につき1ヵ所建設することをゴールとしている。またオバマ政権は、全米の小学校に、ファブラボが備えるデジタル工作機械を導入することも進めている。
なぜ、彼らはこれほどファブラボに注目しているのだろうか? その理由の一つは、ファブラボの持つ〈教育〉への可能性にある。自分の欲しいものを自分の手でつくり、現実世界にものを生み出すというファブラボのコンセプトは、〈創造性〉を養うことに直結しているのだ。
ファブラボにおけるものづくりは、「Learn(ツールの使い方を学ぶ)」「Make(ツールを使って実際にものをつくる)」そして、「Share(その成功体験や失敗体験を他者と分かち合う)」という3つのステップを踏む。このプロセスは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の人気講座「(ほぼ)なんでもつくる方法(How to Make (Almost) Anything)」から生まれたものだ。
最後に「分かち合う」ことで、その体験は個人を離れ、コミュニティの知恵として蓄積される。ファブラボのロゴマークに使われている3色は「学ぶ」「つくる」「分かち合う」の循環をあらわしているそうだ。
この「学ぶ」「つくる」「分かち合う」というプロセスは、〈教育〉に効果的なだけではない。今、このファブラボが持つ文化によって、ソーシャル・ファブリケーション(問題解決型ものづくり)における素晴らしくユニークな物語が生まれようとしている。
そしてそれは、日本の鎌倉から始まった。