限られた資源でつくられた製品は、本当に「安かろう悪かろう」なのだろうか?
「あれがない」「これがない」と、途上国におけるものづくりでは、アクセスできる資源や技術がないことを俎上にあげて、「それは無理」という判断がなされていることを見聞きすることがあるが、それは本当なのか。
MITをはじめ、世界のエンジニアたちがいま注目する「適正技術」という言葉がある。現地のニーズ、人、環境を踏まえたうえで、最適な技術のことだ。不思議なことに、「適正技術」を実践しているうちに、先進国では思いもよらぬイノベーションが生まれることがあるという。今回は、25年以上もインドネシアの田舎で「適正技術」を実践している日本人の話をもとに、「これからのイノベーション」で必要なことは何か、考えたい。

「ローテク=安かろう悪かろう」は本当か?
――適正技術という新しい視点で考えてみよう

 牛糞を燃料に発電するラジオや、電気を使わない冷蔵庫といった、発展途上国が抱える問題を解決するためのテクノロジーを、一般的に「適正技術」と呼ぶ。適正技術によって生み出されたプロダクトは、資源やエネルギーが潤沢でない地域に住む人々の生活を、豊かにすることができる。

 適正技術の概念を広めたのは、経済学者のE・シューマッハだ。第一次世界大戦の直前にドイツで生まれ、第二次世界大戦の戦火をイギリスで体験した彼は、ハイテクすぎず、かといって低レベルにすぎない、「ちょうどいい技術」こそが、焼け野原となった戦後復興において、ひいては途上国開発において役立つことに気づいた(注)

 現在、マサチューセッツ工科大学(MIT)では、適正技術を「現地のニーズ、文化、環境、人などを考慮したうえでの、最善の技術」と定義している

 僕は途上国のためのプロダクトを、100点ほど調べたことがある。製品の創意工夫に感心する一方で、それらはローテクで、安上がりなものというイメージも受けた。結局、「安かろう悪かろう」の製品なのではないか、と思っていた。

 そのイメージが覆ったのは、適正技術の開発・普及を推進するNGO「アペックス(APEX)」の活動を知った時だ。彼らは、限られた資源・技術・エネルギーしかない発展途上国で、いや「限られた資源しかないからこそ」日本だけではありえないイノベーションを生み出していたのだ。

インドネシアの田舎「だからこそ」できた
驚異的なイノベーション

 発展途上国ならばどこでも事情は似通っていると思うが、人の住む場所を歩いていると、腐敗した水、濃縮されたドブの臭いが漂ってくることが多い。川の水は、水彩絵の具を洗った後のような、よどんだ色をしている。

生活排水は未処理で川へ放出されていることが多い
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 ユニセフの調査によれば、全世界で25億人が劣悪な衛生環境にあるという。アペックスの活動地域であるインドネシアでも事情は同じで、人口2億4000万人のうち、6300万人がトイレを利用していないそうだ。生活排水と産業排水はともに河川に垂れ流され、冗談かと思うような汚染が起きている。

(注)E・シューマッハ『スモール イズ ビューティフル』小島慶三、酒井懋(訳)講談社学術文庫、1986年