成長実感シートで
上司と部下が思いを共有
第2部では、松尾氏が提唱する手法を実践して成果をあげている事例として、サントリーホールディングスのOJT実践事例が紹介された。同社ではOJTとOff-JTを連携させて新入社員教育に当たっているが、その特徴は、新入社員に求められる基本姿勢を、「主体性・協調性」の二つと定義している点にある。この二つの基本姿勢をベースに、汎用的に必要なスキル・知識をリスト化し、「育成ガイドライン」としてまとめている。
キャリア開発部 秋山憲太氏
「しかし、このガイドラインだけでは、会社が求めるような主体性・協調性を身につけることは難しい。また、上司の求める主体性・協調性と、新人が考えている主体性・協調性との間にギャップがあり、研修で体験したことが現場で再現できていない、などの問題点も見えてきました」とサントリーホールディングスの秋山憲太氏は語る。そこで、同社では新たに、経験学習のノウハウを採り入れた「成長実感シート」を開発。育成ガイドラインとの二本立てで、新人の育成に活用することとなった。
このシート上では、会社の育成方針を共通言語化し、「自分が1年後にどのような人間になりたいのか」を、主体性・協調性というキーワードにより目標設定。それに対して、自分が実際に取った行動を自己チェックして振り返り、上司からのコメントをもらうというプロセスを4回繰り返す。これによって、上司と社員との間にある認識のギャップを埋めながら、社員一人ひとりが成長を実感できるよう工夫しているという。
「例えば、新人が『自分の仕事を1人でやりきることができず、責任を全うできなかった』と反省していることが、上司の目には、『本当に手が回らないときは、周りに手助けを求めないことのほうが問題』と映ることもある。新人が考える反省ポイントと、上司の視点とが食い違うことは少なくありません。そのギャップを言語化して共有できるのが、このシートのメリットです。成長実感シートを導入したことで、ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントというOJTの好循環サイクルが回せるようになりました」(秋山氏)
サントリーホールディングスの事例紹介の後、再び松尾氏が登壇し、KDDIエンジニアリングや星野リゾート美浜キッチン、ヤフーのOJT実践事例を紹介。「OJT仕組み化のポイントとは、育成方針を明確化して振り返るときの基準を作り、学習サイクルを回す場を作り、マネジャーとトレーナーの育成力を支援し、必要なツールを開発すること。OJTによって若手を育成することはマネジャーとしての成長につながり、ひいては職場力の向上にもつながるのです」と説明した。
大切なのは、OJTを
”見える化”すること
第3部では、効果的にOJTを実践するためのワークショップが行われた。事前にWeb上で受検したOJT診断システム「DLL」のリフレクティブシートに、自分自身の「優秀な指導方法に関する成功エピソード」と「改善すべき指導方法に関する失敗エピソード」を記入。グループごとに発表が行われた。
「今日のワークショップでは、非常に重要なポイントがたくさん出てきたと思います。大切なのは、DLLによってOJTを“見える化”し、自分が部下や後輩を指導するときの強み弱みを把握すること。今日のワークショップの結果を生かし、ぜひ、今後のOJT指導の改善につなげていただきたいと思います」と松尾氏は締めくくった。
[制作/ダイヤモンド社 クロスメディア事業局]