企業として接遇力を向上させようとした場合、自社に対しての社員の安心感・信頼感をつくるための投資は不可欠となる。経営者による本気で取り組むという雰囲気づくり、全社的なプロジェクトとして組織全体の推進、環境の整備など、接遇力を定着させる仕組みづくりが重要となる。今回はその仕組みづくりについて考える。

浜田純子
モアグロウ 代表

 研修の実施や評価制度への反映、推進のためのプロジェクトの発足など、全社的に接遇に取り組むための施策はさまざまなことが考えられるが、社員が自ら進んで接遇に励むようになるためには、それだけでは不十分である。企業で接遇力の研修を行うモアグロウの浜田純子氏はこう語る。

「接遇は、自発的に行われなければなりません。上から一方的に強制して行わせたとしても、社員は型通りの対応をするだけで、お客さまに喜んでもらおうといった気持ちを持つことはないでしょう」

 接遇は嫌々行えるものではないし、たとえ嫌々行ったとしても、その気持ちがすべて顧客に伝わり、結局、顧客満足の向上にはつながらない。社員が接遇を自発的に行うようにするためには、社員が気持ちよく、生き生きと働ける環境を整えることが不可欠になる。

 浜田氏はその環境づくりについてこう語る。「社員は、安心感・幸福感を抱ける職場環境があって初めて、会社のために頑張ろうという気持ちを持つことができます。その安心感・幸福感とは、働くことが楽しいと感じること、働くことの中に喜びを見いだせることです。その思いがあるからこそ、接遇を行う高いモチベーションを持つことができるのです。労働環境はそこで働く『人』を通して、お客さまに空気のように伝わります。企業経営者は、接遇力の向上、もしくは維持を図るのであれば、社員が安心感・幸福感を抱ける環境づくりに絶えず関心を払う必要があるでしょう」

 そのためには、経営者自身が接遇力向上の旗振りを行うと同時に、そのための環境づくりに積極的に取り組む姿勢を示すことが求められる。これはすなわち、企業風土を変えることにもつながることで、経営者にはその覚悟が不可欠となる。なぜなら、そうした改革には、変化を嫌う抵抗勢力が少なからず存在するからだ。浜田氏は言う。

「働きやすい職場環境として、経営者による旗振りに続いて、上位職(管理職)の人たちの意識がどうであるかが大きなポイントになります。いくら社員の意識レベルが向上しても、上位職の人たちに理解してもらえなければ、接遇の実践は難しい。これが実際の現場でも大きな課題になっています。研修をしても生かしきれない大きな原因の一つです」