企業(あるいは製品、サービス)と顧客の関係は複雑この上なく、マーケティング活動に巨額の投資をしている企業でさえも、すぐに収益改善に結びつくことは少ない。ところが、大量の顧客データの収集と解析が可能になったことで、業績改善を実現する企業が出始めている。いったい何がどのように変わったのか。クラウドサービス、CRM戦略を活用したマーケティング支援を手掛けるシナジーマーケティングの角川悟愛氏が、今マネジメントが取り組むべきマーケティングの課題について解説する。
顧客のことが見えていますか?
カスタマー・リレーションシップ(CRM)を強化したい――多くの企業がそう願い、膨大な時間や資金を投じています。マーケティング担当者は、顧客の行動に影響を与える要因を探るため、フォーカス・グループやインターネット調査、行動観察など、さまざまな手法を試みてきました。
クラウド事業部
事業推進グループ リーダー
角川悟愛氏
ところが現実には、それらを利益増加の手段として活用している企業はごく一部にすぎません。企業(あるいは製品、サービス)と顧客の関係は複雑この上なく、顧客管理に巨額の投資をしている企業でさえも、すぐに収益改善に結びつくことは少ないようです。
最大の問題は何でしょうか? 最も大きな原因の1つは、次の質問への答えが表しています。
「御社は的確なセグメンテーションができていますか?」
マーケティング従事者であれば、この問いにyesと答えるのが簡単ではないことがおわかりいただけるはずです。消費者のニーズが多様化・細分化している昨今、「セグメンテーションの切り口の設定→各セグメントにおける人物像の表出」が効果的なマーケティングの大前提となることを熟知する人ほど、現状を鑑み頭を抱えることでしょう。
例えば、キャンペーンを実施したことがある企業で考えてみましょう。複数回実施している場合、ある程度の量の顧客データを蓄積しているはずですが、3年前のキャンペーンで獲得した顧客情報を、半年前に実施した別のキャンペーンの際に再利用するというような、顧客との継続的な関係をフォローする例は少ないようです。新規キャンペーンのたびに顧客情報を蓄積する一方で、それが再利用されることはない、いわゆる、刈り取っては捨てる「焼き畑マーケティング」の状態で、セグメンテーションどころの話ではありません。
これには2つの理由があります。第1は、人的なリソースが足りないことです。それゆえ、安易な手法に走りがちで、既存顧客よりも新規顧客にアプローチするほうが多くの情報を獲得できるという思考に陥ります。しかし、これは間違いです。
第2に、既存顧客の情報の価値を理解していないため、その蓄積と分析の意義を自覚していないことです。それゆえ、せっかく獲得した「お宝データ」 も表計算ソフトの中に放置されます。これでは、新しく獲得した情報と過去の情報の格納場所やフォーマットが異なり、名寄せすら容易ではありません。カスタマー・リレーションシップの強化を図るには、ほど遠い状況です。
ところが、デジタル化によって大量の顧客情報の収集・解析が可能になったことで、仮説・検証を回す〝シンプルな実験〟ができるようになりました。そうした取り組みによって業績効果を挙げる企業も出始めています。
具体的には、デジタル化によってビジネスそのものへの取り組みが変わった、シック・ジャパンの事例をお読みいただけばご理解いただけるはずです。