誕生から50周年を迎え、今も出荷が伸び続け、注目度も衰えることがない。それがIBMのメインフレームだ。技術の進歩が早いITの世界で、50年という長期にわたって必要とされ、今も受け入れられているのはなぜなのか。そこには時代の変化に対応して進化できる設計思想と、常に先端技術を取り入れる製品開発への強いこだわりがあった。
IT業界では類を見ない
50年にわたるロングセラー製品
「メインフレーム(Mainframe)」という言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか。
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「大型コンピュータ」「ホストコンピュータ」を連想した人は多いだろう。また、「基幹系システム」を思い浮かべた人もいるかもしれない。これはメインフレームの役割に着目した言葉で、実際に製造・販売や人事・会計といった企業のコアとなる業務を代々担ってきた。それだけではない。銀行の預貯金口座や保険契約のシステム、電気・ガスといった社会インフラ、飛行機・電車などの公共機関のシステムでも多く採用されている(図1)。
これらの業務は、24時間365日決して止まってはならないものであり、そうした要求に応えるためにも、メインフレームは性能が非常に高いだけでなく、堅牢性も高く、結果として“大型”になっているという側面がある。
一方、ITに詳しい人は「レガシー(遺産・遺物)システム」という言葉を思い浮かべたかもしれない。技術が飛躍的に進歩したことで、ちょっとしたPCでもたいていのことができ、クラウド・サービスも普及している現在、「メインフレームはもはや無用の長物であり、時代遅れである」という見方が、その背景にあるのだろう。
しかしこの考えは実は正しくない。メインフレームは、もともと目に触れる機会が少ないだけで、数多くの分野で現在もなお稼働している。むしろ、その適用分野を広げ、新たなユーザーを開拓しているメインフレームがある。
それが、「IBM System z」である。同製品のルーツである「IBM System/360」(以下「IBM S/360」)が発表されたのは1964年。ちょうど東京オリンピックが開催された年であり、技術進化のスピードが非常に速く、隆盛を誇ったハードウエアやソフトウエアが数年で廃れてしまうことが珍しくないIT業界にあって、50年という長命の製品は類を見ない。
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今でも世界の企業データの70%以上がIBMのメインフレーム上にあると言われていることは驚きであると同時に、世の中ではほとんど意識されていない真実でもある。社会インフラに深く根ざし、毎日のように使用しているにもかかわらず、その存在を意識しないで済んでいるということは、止まらない仕組みが整っている証でもある。
では、半世紀もの間、IBMのメインフレームが支持され続けてきた理由は何なのだろうか。日本アイ・ビー・エムの取締役執行役員でテクニカル・リーダーシップ担当の宇田茂雄氏は「50年という歴史がありながらも、今でも最も新しく、ユーザーニーズに応え続けているからです」と語る(図2)。
その言葉を裏付けるかのように、IBMでは、新しい技術はメインフレームでの実用化を念頭に置いて開発される伝統があり、今でもその開発に年間約1000億円が投資されているという。「レガシー」どころか、IBMメインフレームは最新技術の集合体であり、コンピューティング全体を牽引する存在と言っても過言ではないのである。