新しい働き方に企業はどう対応すべきか

――次に、政府が成長戦略として普及を目指す「ジョブ型正社員制度」(限定正社員制度)とはどういったものでしょうか。

岡本 ジョブ型正社員制度とは、職務や勤務地、労働時間が限定された社員のことをいいます。解雇しやすい正社員をつくるとの懸念がある一方、ライフスタイルに合わせた多様な働き方を可能にすることや、非正規労働者の受け皿になると期待されている面もあります。低成長下では企業はコストのかかる正社員を減らし、人員削減しやすい有期雇用の非正規労働者を増やしてきました。結果、雇用者全体の約37%が非正規労働者で占められるほど増加してきています。

2013年4月に施行された改正労働契約法により、有期雇用の契約期間が同一使用者の下で2回以上更新され(一部を除き契約期間の上限は3年)通算5年を超えた場合、労働契約期間の末日までに労働者から申し込みをすることにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)転換できるようになりました。

――ただしその場合、有期労働契約と次の有期労働契約の間に空白期間(契約のない期間)が6ヵ月以上あるときは、空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めない(これをクーリングという)といわれています。

岡本 その通りです。また、13年4月1日以降に開始した有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合のことであり、実際に切り替わるのは最短でも18年4月からです。また、これは契約期間が無期になるだけで正社員になれるという意味ではありません。

――「無期雇用契約労働者」と「ジョブ型正社員」とは混同されがちですが、どのような違いがあるのでしょうか。

岡本 現状では、契約社員はジョブ型正社員と比較し、賞与を含め賃金水準が低く、昇給、退職金がない場合が一般的で、職務内容や責任の大きさにも違いがあります。しかしながら、多様な雇用形態を導入することは、業務遂行の熟練が蓄積されない不安定な有期雇用からの転換を促進することにもなり、非正規労働者の安定化につながることになると思います。欧米のように、職務を限定した働き方なら、個々の強みを生かしたキャリアアップの可能性もあると考えられます。今回、具体的導入は見送られ、普及の促進にとどまりましたが、今後、ジョブ型正社員の導入により労使共に雇用の仕方、働き方の選択肢が増えるのは歓迎すべきことであり、企業には導入に向け積極的に準備を始めることをお勧めしたいと思います。

――ジョブ型正社員の導入に当たっては、どのようなことが必要でしょうか。

岡本 ジョブ型正社員用就業規則、社内規定の作成、労働契約書類等の事前の準備を整え、ルール化することが不可欠です。賃金や昇進・昇格、雇用保障等、これまでの正規社員とのバランスの取り方も十分に検討して決定することが必要です。しっかりと整備をした上でジョブ型正社員を導入すれば、今よりも雇用問題やトラブルは減少すると考えられます。

 現在日本は、高齢化、少子化、生産年齢人口の減少という問題に直面しています。ジョブ型正社員制度を含む勤務形態の多様化や、外国人労働者の受け入れ要件緩和などにより、新しいビジネスモデルの構築やビジネスチャンスの拡大が見込まれ、そこから生まれる雇用も大いにあると考えられます。また、大学側も職業上即戦力となる教育カリキュラムの組み入れなど、企業側のインターンシップ制の導入を後押しし、産学協同による雇用促進を積極化し、低成長時代の働き方への対応を検討する必要があると思います。