原因は男性ホルモンや
遺伝だけではない

石井 苗子 いしい・みつこ
東京大学医学部客員研究員/女優/ヘルスケアカウンセラー/保健学博士
上智大学卒業後、同時通訳、「CBSドキュメント」初代女性キャスター等を経て、女優として映画、テレビドラマに多数出演。1997年、聖路加看護大学に学士入学。看護師・保健師の資格取得後、東京大学大学院に進学。2007年、医学系研究科健康科学 生物統計学疫学・予防保健学分野で博士課程を修了後、東京大学医学部客員研究員に就任。著書に『「元気」をこの手に取り戻すまで 心療内科で学んだこと』(ダイヤモンド社)他。

石井 そういえば、歳を取ると髪の毛はだんだん育たなくなってきますが、眉毛だけは抜けにくくなるような気がします。

小林 眉毛だけでなく、男性の場合は耳毛や鼻毛も増えてきますね。この理由を皮膚科の先生に質問したことがありますが、明確な答えは返ってきませんでした。歳を取ってくると目や耳の機能が弱くなるので、少しでも体を守ろうとして、外部からの異物が入らないように毛が伸びるのかもしれません。

石井 でもどうして頭髪だけは、歳を取ると薄くなるのでしょうか。よく言われるように、やはり男性ホルモンが原因でしょうか。

小林 男性ホルモンは主な原因の一つと考えられています。男性ホルモンのテストステロンは、髭や体毛などの成長を促進する作用がありますが、頭髪にとっては逆に作用します。

 毛根にある毛母細胞の付近でジヒドロテストステロンに変わり、毛母細胞を萎縮させ、髪の成長を妨げてしまうのです。ジヒドロテストステロンが毛母細胞をいじめてしまい、髪の毛を作りにくくすることがAGAの原因の一つです。

 同じ頭皮でも、人によって、あるいは部位によって、ジヒドロテストステロンに対する毛母細胞の感受性がそれぞれ異なります。そのため、生えている部位と生えていない部位が出てきて、人によっては「波平さん」のようになってしまうわけです。

石井 遺伝の影響もあるのでしょうか。

小林 そうですね。遺伝も大きな原因の一つといえるでしょう。ただ、父も祖父も薄毛だったからといって、その子どもが100%薄毛になるとは限りません。例えば、同じ遺伝子を持った一卵性双生児の追跡調査をわれわれで行った結果、成人後のそれぞれの生活環境によって薄毛の進行状況が異なることがわかっています。

 喫煙、暴飲暴食、不規則な生活、極度なストレスなどの状況を繰り返しているうちに薄毛になる可能性はあります。むしろ、頭髪のことで悩みすぎることが原因となっている場合もあるでしょう。

 ある程度の生活環境の改善とともに、まずは心身を健康に保つことが、頭髪の状態をよくする近道だと思います。

石井 漢方の世界では髪の毛のことを「血余」というそうです。身体の栄養状態がしっかりしていてストレスがなければ、よい血液が流れて、髪の毛が抜けなくなるのかもしれませんね。