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東京理科大学専門職大学院イノベーションレビュー

世界覇権をめぐる特許訴訟の衝撃

2014年5月29日
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知財高裁は、知財実務の
実務慣行の確立の軸となる

 2004年は、日本の知的財産訴訟制度の歴史的な変換点となった。特許法が改正されて「無効の抗弁」や「秘密保持命令」などが導入され、また東京高等裁判所の特別支部として知的財産高等裁判所(知財高裁)の設立が制定された。これによって、知財高裁は、知的財産権関係の訴訟の控訴審として独自の権限を得て、知的財産の健全な実務慣行の確立に寄与すべく活動を続けている。

 まず注目したいのが「無効の抗弁」の導入である。それまでは、特許権の無効を決するには、特許庁の無効審判請求によるしかなかったが、新制度により裁判でも無効の抗弁ができるようになり、同時に裁判所が、特許が無効かどうかを判断できるようになった。

知的財産高等裁判所
第3部部統括判事
設楽隆一判事

 知的財産高等裁判所第3部の設楽隆一判事は次のように説明する。

 「当初、裁判官の間には、審理遅延の懸念等から、無効の抗弁の導入に消極的な意見もあったが、新制度により裁判官も権利の有効、無効と侵害、非侵害を総合的に判断することができるようになり、審議途中でも和解を提案するなどかえって紛争を迅速に解決しやすくなった。

 知財高裁に導入された大合議制も、日本における知的財産実務の確立に寄与していると自負している。知財高裁の5人の判事で構成される合議体で審理と裁判を行うのが合議制で、これまでに9件の訴訟が大合議事件として扱われ、うち7件について判決を出している」

 最近の大合議事件判決を見てみると、特許法102条2項に基づく特許権者の損害額算定で、特許発明を実施していることを要件としない判断を示している。

 特許権利者である外国企業が、かつての日本国内総販売代理店を相手に、その代理店が独自に製造・販売している類似製品が、自社の特許を侵害していると訴えた。原審の東京地裁は、「外国企業は、日本国内で代理店を通じて販売しているだけであり、発明を実施しているとはいえない」として102条2項の「侵害行為で得ている利益は、特許権者が受けた損害の額とする」という規定を適用しなかった。従って査定された損害額は多くはなかった。

 しかし知財高裁は、「102条2項の適用は、特許発明を実施していることを要件とするものではない」という判断を示し、損害賠償額も東京地裁の7倍の額とした。

 また韓国サムスン電子が、アップルジャパンに対してiPhoneなどの製造・輸入・販売の差し止めを求めた裁判では、知財高裁の大合議としては初めて、意見募集という形で証拠の発掘を行い、8カ国の公的機関や個人から58通の意見書が届けられた。この知財高裁判決は2014年5月16日に出された。

 「裁判所が第三者に情報や意見の提供を求める『アミカス・キュリエ・ブリーフ』の試みは、知財訴訟における画期的な取り組みと自負している」(設楽判事)

グローバル知財活用人財の育成へ

 今回の国際IPセミナーを企画した東京理科大学専門職大学院知財戦略専攻の荻野誠教授は、これからはグローバルに知財を活用できる人財の育成が課題と言う。

 「知財の世界では、はっきり言って国内はそれほど重要でない。われわれが立ち向かう相手は、米国であり、中国だ。今一番求められているのは、単に自社技術を知財でどう守るかの知識ではなく、作り上げた知財を活用して、例えば、ASEANやBRICSの成長市場で自社ビジネスを最大限に伸ばすための知財戦略を構築する能力だ」(荻野教授)

 そのためには、世界最先端の生の情報に触れ、世界の最高峰の人たちから直接学ぶことが必要。これが今回のセミナーを企画した目的だ。

 理科大の知財修士プログラム(2年昼夜開講)で学んだ修了生は既に634人に達した。これから入学してくる多くの社会人や学部新卒の学生たちのためにも、強みのWIPO(国連知的所有権機関)や海外の大学・実務家とのネットワークを活用し、グローバルに強い知財大学院づくりをめざしていく。
 

 

[制作/ダイヤモンド社クロスメディア事業局]

 

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いかにして技術から新しい価値を生み出すのか。また、その成果をいかに正当に確保し、配分するのか。東京理科大学専門職大学院のMOT(技術経営専攻)とMIP(知的財産戦略専攻)には、教員・院生を問わず多様な人材が集い、現実の課題に基づく視点から、イノベーションを実現するための叡智が日々蓄積されている。

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