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東京理科大学専門職大学院イノベーションレビュー

世界覇権をめぐる特許訴訟の衝撃

2014年5月29日
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製薬産業における
アンチ・パテント増加の兆候

武田薬品工業株式会社
知的財産部長
奥村洋一氏

 つづいて、武田薬品工業株式会社知的財産部長の奥村洋一氏が、製薬業界における知的財産権をめぐる課題を説明した。

 製薬業界では、パテント・トロールや国際標準必須特許をめぐる差止請求問題などはあまり見受けられない。むしろ顕著になってきているのが、「知的財産権の意味の変化」だ。

 世界の製薬業界は合従連衡による再編が進んでいる。現在、新薬を開発できる能力を持った企業が存在するのは10カ国程度だ。米国のほか、英国、スイス、ドイツ、日本等々のメーカーである。こうした限られた製薬企業に新薬開発が集中していることを背景に、「特許があるからこそ薬が高く、新興国では科学発展の成果を享受できない、つまり新薬を使えない」という論調が強まっている。また、それらの論調を反映したような各種の審査実務や判例が出始めている。

 例えば中国特許庁では、商業的に重要な意味を持つ新規医薬品活性成分に関する特許を認めない事例がある。特許法そのものを改定してはいないが、2006年に審査指針を改定する形で厳しい特許要件を要求している。記載要件が極めて細かく、厳しくなり、新化合物でも特許として認めないことがあるのである。

 「欧州やアメリカ、日本、韓国などの特許庁の対応とは整合しない審査指針であり、また、成立済みの特許やもやは補正の機会のない係属中の出願にも、新記載要件が遡及的に適用される可能性があるという問題もある」(奥村氏)

 またインドでは、特許の登録拒絶や強制実施権の許諾、差し止め請求の棄却などがなされている。例えば、ノバルティスの「GLIVECTM」特許は、昨年インド最高裁判所で拒絶査定が確定した。またメルクの「JANUVIATM」では、仮差し止めの請求が認められず、バイエルの「NEXAVARTM」特許では、強制実施権に対する異議が控訴審でも認められなかった。

 いわゆるアンチ・パテントを軸とする国々は、さらに増えている。

 「武田薬品工業を含む製薬企業5社とビル&メリンダ・ゲイツ財団、日本政府などは共同で、途上国にまん延する感染症の新薬やワクチンなどの新しい医薬品の研究開発と製品化を促進するために「グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)」を設立した。単なる途上国支援ではなく、新薬の開発力を途上国の保健医療問題の解決に生かすという新しい考え方を具現化したファンドだ」(奥村氏)

 こうした取り組みを、着実かつ成果のあるものにするためにも知的財産権の確保は不可欠である。同時に、知的財産権を守るだけではなく、それをどう使うかが問われる事態になっている。

 

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いかにして技術から新しい価値を生み出すのか。また、その成果をいかに正当に確保し、配分するのか。東京理科大学専門職大学院のMOT(技術経営専攻)とMIP(知的財産戦略専攻)には、教員・院生を問わず多様な人材が集い、現実の課題に基づく視点から、イノベーションを実現するための叡智が日々蓄積されている。

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