日本の電力網は世界トップレベルの安定性と効率性を維持してきたが、東日本大震災以降、電力システムの改革が叫ばれている。この現実を踏まえ、スマートグリッドやスマートメーターといった革新的ビジネスを着実に実践するには、電力、通信、ITなど幅広い分野の技術融合必要だ。イノベーショナブルなビジネスモデルを厳選してお届けする連載「Oracle Industry Leadership Summit 2014~革新的ビジネスを構想から実践へ」。第1回は、多くの聴衆が聴き入った、米国電力中央研究所とエナジー・オーストラリアの先駆的事例を紹介する。
日本の電力事情
東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故発生で、日本の電力事情は一変した。発送電一元管理、地域別運用を長年維持し、安定的かつ安価な電力供給によって経済成長を支えるインフラとしての役割を果たしてきた電力業界は、事実上の原子力発電の休止、発電事業者の新規参入や従来の電力会社の事業地域を越えた給電など、これまでにない事態に直面している。
そこで、安定的かつ安価な電力需給システムを維持・継続するために、発電のみならず、配電の自由化にも途をつけたのが「電力システム改革方針」だ。このほど閣議決定された「エネルギー基本計画」には、規制緩和と自由化による電力システムの改革を断行することが明記された。エネルギー基本計画が、電力システムの改革に強力なお墨付きを与えた格好である。
電力自由化とひと口に言っても、実現にはさまざまな課題がある。中でもカギを握るのが、グリッド(送電網、電力系統ともいう)の安定運用だ。世界的に見ても停電の最も少ない電力供給を行っている日本とアメリカを単純に比較するわけにはいかないが、日本における変革の目的を明らかにするために、また「電力会社による電力会社のための変革」にしないためにも、世界の事例を知る必要があるだろう。
電力自由化のカギは
グリッドの安定運用
グリッドの中では、供給量と需要量の同時同量と称されるバランスが取れていなければ、電気を安定的に供給できない。発電、送電、給電の3つのプロセスを一地域内で一事業者が管理する現在の日本の電力システムでは、曜日や季節ごとに変わる事業所等の稼働率や寒暖を中心とした
送配電・電力利用技術部門 副社長
マーク・マグラナハン氏
天候の変化などに合わせて、発電量を調整しながらグリッドの安定運用を図っている。だが、発送電事業の自由化によって、電力供給量の調整が適切に行われないようなことになれば、グリッド全体が機能せず、最悪の場合、大規模停電などを引き起こしかねない。
また、再生可能エネルギーの活用の増加も、グリッドの不安定さを増す要因となる。太陽光や風力などによる発電では、気象条件によって得られる電力量が大きく左右されるからだ。グリッドに供給する電力量を、需要に合わせていかに調節できるかがグリッドの運用上、大きな課題となるのである。
「グリッドの安定運用、従来に比べて、はるかに複雑な要素を考慮しなければなりません。それには、最先端のICT技術が不可欠です」と語るのは、米国電力中央研究所(Electric Power Research Institute)のマーク・マグラナハン氏である。