電力システムに求められる“新境地”
EPRIの送配電・電力利用技術部門は、米カリフォルニア州パロアルト、ノースカロライナ州シャーロット、テネシー州ノックスビルに研究拠点を置き、500人のエンジニアや科学者が、30カ国、1400人の専門家集団と協力して最先端の研究開発を続けている。
この部門は、マグラナハン氏が副社長として率いるが、上記の送配電・電力利用技術分野に加えて、先ごろその中に情報通信部門が新設された。その狙いは、「状況の変化に柔軟に対応でき、停電事故の際も復旧・回復が早く、多様な電源を接続できて、エネルギーリソースの最適化を可能とする電力システムの構築にある。それには、地理情報システムの確立、システムの信頼性や障害への耐性、高度な自動化はじめ多様な課題の解決が必要だが、「各種データの統合と分析という、電力システムにとっては、いわば新境地が求められる時代が到来したということです」と、マグラナハン氏は力説する。
送電分野を例に挙げれば、これからは変電所の自動化やフェーザ測定装置などによるグリッドのモニタリング、スマートメーターによる需要者側の状況の管理などがリアルタイムで行えるようになって行く。この結果得られるデータ量は膨大となり、その収集と解析を正確に行うための新たなアプリケーションが必要となるわけだ。
膨大なデータの統合・解析が
安定運用を効率化
ICTの革新によって、どのようなことができるようになるのだろうか。
「秒単位で電流・電圧を測定してその乱れを解析し、その結果をリアルタイムで活用できるよう運用の意思決定をスピード化あるいは自動化する。変電所や送電設備などの運用の現状データとメンテナンス記録などの蓄積を統合して資産管理を行う。グリッド内の多様なセンサーを統合し、災害や事故の際に障害箇所をスピーディーかつ的確に発見して復旧を早める。変電所の運用データとセキュリティセンサーからのデータを統合して常時監視のしくみを確立する、といったことが可能になります。
データの正確な検知技術とともに通信技術、そしてデータを統合して分析する新たな仕組みの構築が、グリッドの安定運用には不可欠なのです」(マグラナハン氏)
EPRIでは、スマートグリッドの多様なデータを取得し、共同で分析・評価して、その知見をもとに、新たな電力系統の概念形成や、アプリケーションを開発するための長期的な国際的プロジェクトを進めているという。
さらに、新たな電力システム運用のカギを握るのが、スマートメーターだ。スマートメーターには、検針コストの削減や電力消費量の見える化などのメリットがあるが、燃料電池や太陽光発電による小規模電力供給のコントロールに力を発揮することも見逃せない。
また、「スマートメーターで電圧変化のモニタリングを行い、系統電圧を正確に下げることにより、節電効果が出ます。このような電圧のコントロールによってグリッド全体で3%もの節電が可能になるとの結果も得ました」とマグラナハン氏は胸を張る。