スマートメーターの“小売戦略”
ディレクター
ニック・メランベリオティス氏
スマートメーターの展開を軸にした小売戦略で、すでに成功を収めた電力会社もある。その1つがエナジー・オーストラリア(Energy Australia)だ。
オーストラリア南部のビクトリア州を中心に電力と天然ガスを供給してきたEAは、2011年にニューサウスウェールズ州に電力を供給するアウスグリッドを同州政府より買収。電力業界の自由競争激化を背景にマーケティングを強化し、顧客数を拡大した。01年に約66万だった電力利用顧客は、11年に約128万にまで拡大している。
EAのソリューションセンター・アーキテクチャー・ディレクターのニック・メランベリオティス氏は、「多様なデータを統合するアプリケーションの運用と、顧客利便性の高めるデジタル戦略が奏功したことが、当社の成功の理由です」と明かす。
実はオーストラリアの電力小売業の経営環境は厳しい。政府所有の配電企業は、政府に多額の配当金を支払う必要があり、過去5年間で料金が倍増。さらに借入金返済や各種決済のためのキャッシュフローの重要性が高まった。一方で、30分ごとの課金データと過去12ヵ月の使用電気量を示したデータを顧客に提供するよう義務付けられている。オーストラリアでは製造業の撤退、ソーラーパネルの普及など小売発電への逆風が続くうえに、顧客の契約切り替え率は15~30%にも及ぶ。こうした背景にあって、EAの善戦ぶりは注目に値しよう。
顧客から「選ばれる」電力会社に
では、EAは具体的には何をしたのか。
EAは、現在、100万近くを管理するスマートメーターを戦略的に活用している。「年間14億件もの検針記録を受信し、気象条件などに適合した需要予測に基づく配電、契約切り替えへの迅速な対応と適正な課金、各種エネルギーの仕入れ価格の有利な設定、取引先との適時・正確な決済など、経営のあらゆる面でリスク・コントロールとコスト削減を実現しました。膨大なデータを統合・分析するアプリケーションが大きな役割を果たしています」(メランベリオティス氏)。
EAの革新的なビジネスモデルは、顧客にも多くのメリットをもたらしている。顧客はPCやスマートホンで、電気利用料を詳細に把握できる。そのうえで、多彩な料金プランから最も有利なものを選ぶことができ、曜日別にプランを変えるといった柔軟な対応も可能だ。こうしたコミュニケーションのデジタル化に加えて、電話オペレーターのトレーニングなどにも力を入れ、顧客満足度の一層の向上を果たした。こうした一連の取り組みが、EAを「選ばれる電力会社」にし、顧客基盤をさらに強固にしたことは想像に難くない。
最後にメランベリオティス氏は、「今後もスマートメーターの設置・管理を拡大するとともに、システムのアップグレードも予定している」と明かしてくれた。EAの例は、電力自由化、規制緩和をビジネスチャンスとするため、ICT戦略がいかに重要かを雄弁に語っている。