「でも、その消費者の“不満”、つまりニーズから、この『濃い味〈糖質ゼロ〉』の開発がはじまったので、何としてもやってみたいと思ったんです」(蒲生さん)

糖質ゼロと「コクや苦み、飲みごたえ。」
これらを両立させるのが難しい

 商品開発の大命題は「新ジャンルの商品で、糖質ゼロ、カロリーオフ、プリン体カット、そしてコクや苦味・飲みごたえはしっかり」。これは開発者にとって、「非常に高いハードル」なのだという。

「特に糖質をゼロにしてしまうと、どうしても味が薄くなってしまいます。どうやって飲みごたえのある味を出せるか。『糖質ゼロ』というスペックの部分と『飲みごたえ』という味の部分を両立させるバランスを見つけるのが非常に難しいんです」

 ビールを飲んで「ウマい!」と感じるキモは麦芽。麦芽が多ければ飲みごたえは増すがその分、糖質も高くなる。麦芽に含まれるものをいかに減らすか。だが、減らしすぎてしまうと美味しくない。

「麦芽から糖質を削るのは『糖化』という工程の中で行うんですが、ここで酵母が糖を食べることができる状態にするんです。だから糖を、酵母がいかに食べやすい状態に調整するかが大事になるんです。そういうことを何度も重ねたり……」。

 味の引き出し方も難しい。使える範囲で最大限麦芽を使っても、飲みごたえが弱い。

「それをカバーするために、ブラウニングといって、アミノ酸と糖に熱を掛けてコクを出す、という技術があるんですが、それを組み合わせてみたり……。味わいを引き出す苦味にはホップが大きく影響しますが、多ければいいというわけではなく、その苦味を受け止められるベースが出来てないと、苦味ばかりが立ってしまってダメなんです」。

 この他にも、蒲生さんは数え切れないほどの手法で試行錯誤を繰り返している。
「何度も試験醸造を行っては、失敗を重ねていきました。当初の想定以上に膨大な時間を費やしましたし、なかなかバランスがとれなくて大いに悩みました」

 商品開発研究所内では様々な新商品の開発が並行して進められており、同施設のエレベーター内には担当者たちを励ます意図で、「挫けそうになってもがんばろう!」といった趣旨のメッセージ文が掲示されている。失敗が続いた時期は、あまりのプレッシャーから、それさえも直視できなかったと蒲生さんは振り返る。