もしも手塚の遺族や元同僚が、訴えを起こそうものなら、逆にディズニー側の徹底的な「倍返し」が来そうですよ。米国で強力な弁護士軍団を結成されたら、立ち向かえないでしょう。むしろ、ディズニーと手塚の作品の関係では、作り手と作り手がお互いに影響を与え合う点に注目してはどうでしょうか。
それって、著作権侵害ですよ
「プロの世界」にアマチュアが乱入?
多くの国の著作権法の基礎となる「ベルヌ条約」は1887年に発効し、著作権の国際的な枠組みが定まりました。日本はこの条約に1899年に加盟しました。現在165国が加盟しています。「ベルヌ」とはスイスのベルンを指します。国内法がこの条約に縛られるため、加盟国が自国の著作権法を独自に変更することは難しい。だから、著作権の基本的なルールは100年以上、変わっていません。
100年前と言えば、テレビもパソコンもインターネットはありません。コピー機はなかったし、普通の人が使うカメラもありません。「複製」や「コピー」の概念が今とはまるで違っていたことが簡単に想像できます
そのころの著作権は、言ってみれば、画家や美術商、作曲家、出版社、編集者など「プロのためのお約束」であり、ルールだったと言っていいでしょう。
しかし今、著作権をめぐる状況は激変しました。言うまでもなく、複製やコピーに関する技術革新のおかげです。年代としては1970年代頃が大きな節目となりました。
1970年代、「ゼロックス式」と言われる普通紙のコピー機が出回り始め、日本の電機メーカーが相次いでラジカセを発売しました。誰もが気軽に、文書や音楽を複製(コピー)する時代が始まったのです。
デジタル技術の進歩は圧倒的です。例えば、スマートフォン(スマホ)。アポロ宇宙船で人類を月面到着させたコンピューター以上のパワーを持ちます。今や、そのスマホ1台で、誰もが気軽に自分のコンテンツを世に発表できるようになりました。
これまでは、大がかりな装置を持った放送局だけがコンテンツを一斉にばらまくことができたのですが、今では小学生でも可能になりました。YouTubeやニコニコ動画を見れば、「堂々たるアマチュア」が自分の歌やダンスを公開しているではありませんか。
しかし、スマホ時代になっても、複製と利用に関する「著作権ルール」そのものは、ほとんど変わっていない。ここに大きな問題があります。「プロのお約束」で運用されているうちは問題が起きなかったのに、「お約束」を知らないアマチュアが一気に参入してくることで、混乱が起き、著作権に関する問題や紛争が多発するようになりました。
実は、著作権法は文化に関わる法律であるため、ほとんど全ての人の日常生活に関わりの多い法律だと私は思っています。もしかして道路交通法よりも身近な法律かもしれません。実際、私たちの回りには、「それって、著作権法違反ですよ」ということが多い。今後ますます著作権侵害は増えるだろうと思います。「そんなこと、知りませんでした」は通用しません。「あなたの勉強が足りなかったのです」と反論されれば、それまでなのです。