医療費負担のあり方を問う
混合診療
政府は、患者が自費で未承認の新薬や医療機器などの先進医療を利用できる「混合診療」の実現を成長戦略に盛り込んだ。
海外で新薬として承認されても国内で承認されるまでに長い時間を要する「ドラッグ・ラグ」は、がん患者にとっては切羽詰まった問題だった。多額の費用が掛かっても新薬を早く使いたいと願う患者は多い。
藤原局長によると、欧米で承認されているが日本では未承認のがん医薬品の数は、14年5月末時点で41。未承認数は増加傾向にあるように見えるが、5大がん(肺、胃、大腸、乳、肝臓)でのラグはほとんどなく、日本人にはまれな血液系のがんを対象としたものが主体だ*。
国内未承認薬の薬剤費は、大半が毎月数百万円ほどだ。混合診療が認められた場合、患者の具体的な負担額はどれぐらいになるのか。国立がん研究センターは、患者申出療養(仮称)の制度が導入され混合診療を受けた場合の自己負担額を試算した。
皮膚がんの一種である「メラノーマ」に劇的な効果があると評価されている「イピリムマブ」では、治療開始から1ヵ月間の治療費(薬剤費と医療費)は、全額自己負担ならば351万9690円。混合診療(保険外併用療養)が認められると341万2470円で、患者の負担額は10万7220円軽減される。一方、薬剤が薬事承認されて薬価も付いて保険診療の中で使用されるようになると、高額療養費制度(治療費が一定額を超えると自己負担が軽減される仕組み)の適用があり、一般的な所得の患者の負担額は11万4147円で済む。
他の未承認薬も同様であり、混合診療が認められても、患者負担が軽減するわけではない。藤原局長は、「逼迫する医療財政を考えると、全ての新薬を保険収載にするのは実質的に困難な将来が来ると思います。また、新薬だから有効性が高いというわけでもありません。高価な新薬を自腹を払ってでも使える人と保険診療の中でしか利用できない人の医療格差の生ずる時代が間近に来ていることについての説明が、十分になされていないのが現状です」と言う。
混合診療による未承認薬の利用や免疫療法は、オーダーメード型の治療であるために、対象となる患者数が少なく、製造コストの低減は難しい。将来的には、公的な保険による治療だけで良しとするか、民間保険も活用しながら先進医療を望むかという選択を迫られることになる。
「お金持ちほどオーダーメード型の治療を受けられる米国型の医療社会を、日本の人たちが許容できるのか。そうした議論を始めなければならない時期に来ています」(藤原局長)