
米倉 以前、川添さんとご一緒した別のセミナーで、たまたま会場のなかにお医者さんがいて、「君たちは、俺たちの邪魔をしている! 素人がそんなことをやったら、どんなことになるのかわかっているのか!」と苦言を呈した人がいましたね。でもね、僕はそのとき思ったんです。川添さんたちは医者の競合なんかじゃない。ケアプロのところにやって来るのは、医者や病院のところに行かない人、行けない人。そこが全然分かっていないなと。超高齢化社会の到来で日本の医療費が増大しているなか、医療費の約3割、なんと10兆円が生活習慣病予防に使われている。だからこそ、これからは治療だけでなく、「予防」が大切。予防医療は、これからの日本にとって、不可欠ですよね。
川添 はい、そのとおりです。国もようやく予防医療を推進する流れとなり、2013年の産業競争力会議では、「ワンコイン健診」の普及が提言されました。そして今年の4月には法律も改正。しかし、法律が変わったとたん、大企業が一斉にこの事業に参入してきました。その数500カ所。規制が緩和されれば、あっと言う間に市場が広がる。6年掛かってここまで来た僕らとしては多少悔しい思いもありますが、これからが本当の勝負です。
僕らは、この規制改革を成し遂げた実績をもとに、今後は海外に展開していくことも考えています。自己採血の健診モデルを引っ提げ、まずはインドで挑戦するつもりです。日本という規制でがんじがらめの市場のなかで確立したサービスは、質としては非常に高い。勝算はあります。規制大国ニッポンならではのビジネスモデルになるはずです。
仕組みだけじゃなく、
顔の見える関係づくり
米倉 では、次はエネルギー分野に入ります。経済界の多くが原発賛成と言われるなか、脱原発を掲げて活動している鈴木さん。そもそも、かまぼこ屋の経営者が、新しいエネルギーの仕組みづくりをやろうと思ったきっかけは何でしょうか?

鈴木 きっかけはやはり、2011年3月の東日本大震災でした。私は以前、商工会議所青年部の全国の会長をしていた関係で、被災地にも友人が多くいました。被災した彼らとのやりとりを通じて痛感したのは、次の2つです。
1つは、「中央集権的な仕組みは、有事にはすぐに動かなくなってしまう」こと。震災のときも、全国から送られた支援物資の多くは、災害対策本部で止まってしまい、被災者にはなかなか届かない。だからこそ、独立型、分散型、直接型の仕組みが必要だと感じました。それはエネルギーでも同じです。
そしてもう1つは、「どんな仕組みを作っても、顔の見える人間関係がないとダメだ」ということです。福島で原発事故が起きて、私たちの地元・箱根の旅館業も大きな影響を受けました。キャンセルが相次いだのです。であればと、素人考えで、その旅館に福島の被災者たちを受け入れようと、町長、市長、組合長さんと話をして、700名の受け入れ態勢を作りました。しかし、誰も来なかった。たしかに、福島から見れば箱根は遠い、という距離的な問題もあったでしょう。しかし、被災地の人たちと私たちの間に少しでも人間関係があれば、状況は違ったかもしれません。だからこそ、仕組みだけじゃなく、顔の見える関係づくりが大事だと思ったのです。