もちろん被災地ではない私たちも、震災によって商売に大きな影響を受けました。皆さんも記憶にあるとおり、電力不足が企業の大きな課題にもなりました。そのなかで感じたのは、やる気になれば、もっと省エネできるということです。それに、日本のエネルギー供給システムの危うさも痛感しました。実際、その危うさが露呈し、福島には、いまだに人が住めない場所が多く存在しています。そんな悲劇を今後生まないためにも、自分たちの故郷を守りつなげていくためにも、中央集権ではなく、地域に根ざした新しいエネルギーの仕組みが必要だと思ったのです。

 そこで私は全国を回り、中小企業の仲間と議論しました。しかし多くの人はこう言いました。「お前の気持ちはわかるが、俺たちには何もできないよ」と。しかし、そうした一人ひとりの力は小さくても、それを全国につなげば大きな力になります。その結果、2012年、全国の中小企業経営者によるエネルギーネットワークを作ることにしたんです。

米倉 鈴木さんは、その「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」の活動の傍ら、地元・小田原で再生可能エネルギー会社の立ち上げをされましたね。当初、「小田原電力」と言われていたと思いますが。

鈴木 2012年に、中小企業5000社から5400万円ほどの資本金を集め、「ほうとくエネルギー株式会社」という名前でエネルギー会社を設立しました。小田原市街地の公共施設の屋根貸しソーラー、市内の山奥にメガソーラーを建設。その建設費5億円のうち、なんと1億円は市民ファンドで集まりました。1口10万円でしたが、2ヶ月で完売。出資者の半分が小田原市民でした。地元の人たちによる、「自分たちでエネルギーを作りたい」という想いが形になったんです。エネルギーが人々をつなぎ、地域を元気にする可能性を秘めている。そう痛感した瞬間でした。

小さいからこそチャンスあり。
日本の農業にもっと多様性を

米倉 TPP参加交渉で注目を集めている農業分野ですが、そのなかで有機農業の第一人者として活躍している山下さん。規制漬けされてきた日本の農業ですが、どのようなポテンシャルがあるとお考えですか?

山下一穂(やました・かずほ) 山下農園 代表/有機のがっこう「土佐自然塾」塾長      1950年高知県生まれ。大学進学のために上京し、東京でドラマーとして活動。帰郷後、高知市内で学習塾を経営したのち、48歳で新規就農。自然農法の概念と農家としての経済性向上を融合する、新しい有機農業を実践中。2006年、就農希望者に有機農業を教える「有機のがっこう・土佐自然塾」を開校、塾長を務める。有機農業や農業問題をテーマにした講演活動も精力的に実施。著書に『超かんたん無農薬有機農業』(農村報知新聞社)がある。

山下 規制があろうがなかろうが、僕のまわりではイノベーションがガンガン進んでいます。僕がやっている有機農業は、実は国内に巨大なマーケットがあるのです。作れば作るほど売れる。ただし、有機野菜だからといって、お客さんが必ず買ってくれるわけではありません。多くの人は、美味しいから買う。実は有機農業では、素人でもコツさえつかめば、その美味しい野菜を早く作ることができるのです。

 既存の日本の農業は、戦後大規模化してきました。もちろんそれが悪いというわけじゃない。ただし、大規模農業となると当然効率性が重視。農薬、化学肥料を上手に使って、コストを下げて、安定供給することが優先されます。もちろんこれは、日本の食糧供給という点では優れた仕組みです。ただし、規模が大きくなればなるほど、クオリティは均一化されます。つまり、70点どまりの商品が多くなるということ。

 しかし一方で、これ以上の品質の商品がほしいというニーズは確実にあります。日本ではこれまで、この部分が空白でした。ここに巨大なマーケットがあるのです。しかしそれは大規模農業だと対応できない。ここにこそ、有機農業のような小さい農業の強み、存在価値があるのです。しかし、マーケットは多様です。だからこそそれに対応する多様な農業、つまり、大規模農業だったり、慣行農業だったり、有機農業だったり。日本の農業のなかに、そうした多様性を持っておくことが健全な姿だと思います。