──実際の相続では、どんなことが手続きの遅れの原因になるのでしょうか?

長谷川 一般には、相続人の数が多いほど、また残された財産が多額で多種なほど、手続きに時間がかかります。相続人同士の連絡がうまくいかないことも遅れの原因になります。想定外のことが生じると相続手続きの進行が止まりかねません。被相続人とは異なる名義の預金が、実は被相続人の財産と判断される場合や、ネット証券の口座が見つかったりするケースもあります。

 一方で、不動産の権利書が見つからないとか、前の相続を反映した登記が行われていないということも。時には、思いもよらない相続人が現れることだってあります。

生前の準備で
手続きがスムーズに

──手続きの遅れを防ぐ方法はありますか?

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長谷川 まずは被相続人となる方の生前の準備が大切です。家族・親族の状況や財産の現状を最もよく知っているのは、本人に他なりません。財産目録を作成するとともに、遺言を残して自分の意思を明確にしておくことが必要です。

 また、贈与や以前の相続による財産の受け渡しに関して、実態に合った名義の書き換えや登記なども済ませておくべきです。理由があって名義を変えない場合も、そうした処理の意図をきちんと書き残しておかないと、後になって相続人を困らせることになります。

──相続税改正に対する報道などで、相続や相続税に詳しい人が多くなったと思いますが……。

長谷川 かなり以前から決まっていた改正ですから、相続に関心を持つ人が多くの知識を得ていることは、セミナーなどで実感しています。基礎控除額が圧縮されたことで、今まで相続税とは無縁と考えられた人たちも、納税しなければならないかもという切迫感を感じているからでしょう。しかし、いろいろな知識をお持ちでも、具体的な対策を進めるまでには至っていない方が少なくないようです。

──それはなぜでしょうか?

長谷川 一つには、弁護士や税理士に相談するという習慣が浸透していないことが挙げられます。また、財産構成は時間の経過とともに変化するため、どのタイミングで対策を講じればよいか分からないという考えもあるようです。とはいえ、人の死は突然やって来ます。相続対策のための気力・体力がいつまで続くか分かりません。対策には早めに着手したいところです。