システム科学の石橋博史社長は、「HIT法は、各種の業務を徹底的に解剖して可視化し、定量化する。これによりマネジャークラスは、ムダを見抜いて排除するだけでなく、部下の多能職化を進め、結果的にチームをより戦略的な課題に取り組ませることができる。HIT法による成果をIT関連のシステム開発と合体させれば、真の意味でのBPRを実現できるようになる」と解説する。
その取り組みの結果として八千代工業が生み出した成果が、冒頭の42万3837時間、2000万円でのERP導入だ。
HIT法が管理部門の“共通言語”になり
業務を可視化する
10年に始まった八千代工業のHIT法は、本社を含む、6事業所の管理部門800人が対象となった。HIT法への取り組みはそれぞれ半年間を目安とする「基本活動」「専門活動」の二つからなる。
まず本社部門が基本活動に入って以後、順次、他部門が取り組みを始めるスケジュールで、11年暮れにすべての対象部門での基本活動と専門活動を終了。以後、自主的なレベルアップ活動が続いている。
例えば、帳票承認に何人の印鑑が必要か、帳票入力の工数はいくつか等々。各部門とも、明らかになった工数の重複の解消や改善により、基本活動で15%、専門活動で15%の合計30%の工数節減を目標とした。だが実際には、各部門の実績平均は31.7%を記録。さらに自主活動により10%の上乗せを目指し、15年1月末現在には42.5%を達成した。新たな作業が生まれても、不断のチェックで工数が見直され、工数が減るだけでなく改善率も向上する。その削減工数の総時間が先の42万時間である。
HIT法の活動を推進する部署を任された小島幸雄・管理本部BPR推進部部長は、「HIT法は、業務の流れや作業内容を専用ソフトに入力して分解していくため特有の記号を覚えなければならないなどの基礎訓練が必要だ。私自身はシステム屋だが、これで何の効果があるのだろうかと半信半疑だった時期もあった」と打ち明ける。
ある仕事は、「山田さんでなければできない」などと言われているように、仕事に人がつくのではなく人に仕事がついている現実がある。これは管理部門、間接業務では顕著にみられる傾向だ。そのためにHIT法による業務の分解そのものに抵抗感を持つ従業員も少なくなかった。
しかし、石橋社長が率いるシステム科学のカウンセルチームの指導は厳しかった。反論をすると石橋社長からコテンパンに論破されてしまう。反発して成果を出せない人間は置いてきぼりにはならないが、やらざるを得ないマンツーマン研修が待っている。
小島部長がさらに打ち明ける。
「取り組みから4ヵ月、ちょうど基本活動の半ばを過ぎた頃から、自分の仕事がどんどん変わり始めているのを実感できるようになりました。明らかに動きにムダがなくなり、残業もなくなる。これは、と思いました」
結論を先に書けば現在の八千代工業では、HIT法は管理部門の“共通言語”になっている。HIT法によって分解された業務内容を見れば、どこに課題があり、どのような改善策が必要かが自然に浮かび上がってくる。多能職化も進む。なぜなら仕事がHIT法により分解され、工程が示されているから誰にでも理解できるのである。
HIT法の習得は社内の資格認定条件にもなっている。主任(係長)に認定される際には、「HIT-B(ベーシックコース)」、主幹(管理職)に認定される際には「HIT-M(マネジメントコース)」の取得が義務づけられ、「業務の専門性とHIT法についての理解の両方がないとトータルな専門性がないと判定される仕組みをつくっている」(太田常務)。