中古マンション購入を考える人が、必ず思い浮かべるのが「いつまで住めるのだろうか」という疑問だ。特に、現在の耐震基準を満たしていない古い建物は、「大地震が来たら……」と不安が募る。実際はどうなのだろうか。
世界遺産候補の軍艦島は
築99年の集合住宅
日本で初めて鉄筋コンクリート造の集合住宅ができたのは1910(明治43)年。三井同族アパートで、現存しない。次にできたのが、長崎港の沖合に今も遺構が残る16(大正5)年の三菱高島炭鉱端島鉱員住宅。これが通称、軍艦島である。
最近、世界遺産候補となった軍艦島の保存が話題に上るようになり、朽ち果てていくコンクリート塊の映像がテレビなどに流れるようになった。「100年たつとマンションもああなるのか」と思った人もいるのではないか。
関東大震災(23年)の後、震災復興のため、都内各所に同潤会アパートが建てられた。その最後の1棟(同潤会上野下アパート)も2013年に取り壊され、今は新しいマンションに生まれ変わりつつある。
こうした建て替えの話題を耳にするにつれ、「古いマンションにはいつまで住めるのか」という思いが強くなってくる。
マンションの寿命60年説
根拠は減価償却資産の計算
(出所)東日本不動産流通機構「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2014年)」
拡大画像表示
古いマンションを購入する人は、中古マンション市場の拡大に伴い、年々増加。14年は中古マンション取引で成約した人の、2割以上が「築31年超」を選んでいる。
こうした古いマンションを選ぶ人が気にする数字に、「耐用年数」がある。「マンションは耐用年数が60年と聞く。ならばあと30年は使えるだろう」という具合だ。
ところが耐用年数とは、「建物がここまでは使用に耐える」という年数ではなく、法律で定めた「減価償却資産が利用に耐える年数」なのである。
「マンションというのは、ちゃんと手入れすれば何年でも住めます。手が入らなくなり放置されると、住めなくなります。皆さん、物理的にコンクリートがもたないのではないかと心配されますが、そういうわけではない。どんな建物も、お金を掛ければ元に戻る。ただ、それにどのくらい掛かるのかという程度の問題なのです」(早稲田大学創造理工学部・小松幸夫教授)
ちなみに鉄筋コンクリートの耐力壁や柱、梁など構造上重要な部分は、かぶり厚といって、鉄筋の周りのコンクリートの厚さが30mmあるように建築基準法で定められている。仮にコンクリートが空気に触れることで1年に0.5mm中性化していくとすると、60年で鉄筋まで達する計算になる。
中性化が進んでかぶりコンクリートが剥落するようになる年数を仮に算出したのが、「マンション60年説」の元らしい。