だが一方で、民主党は「日本を取り巻く安全保障環境が近年大きく変わりつつある」と、安倍政権と共通する国際情勢認識を持っていることを記していたし、「離島など我が国の領土が武装漁民に占拠される『グレーゾーン事態』への対応は最優先課題」「周辺有事における米軍への後方支援は極めて重要である」としている。要するに、安保法制に関して安倍政権と全てにおいて相容れないということはなく、国会審議において政権と是々非々で議論をする準備をしていたということなのだ。

 安倍政権が、野党の保守系議員と協議の場を設けて、彼らの考えを取り入れて妥協しながら進めていけば、ここまで国会で揉める必要はなかったはずだ。そうなれば、たとえ社民党・共産党が反対し、憲法学者が「違憲」と主張しても、国民的反対運動が盛り上がる余地はなかっただろう。「違憲」の部分を後回しにして、合憲の部分から法案を通していくことができたからだ。更にいえば、安倍政権がより戦略的に動けば、憲法や安全保障について党内に多様な考えが存在する民主党の内紛・分裂を画策することもできたかもしれなかった。

安倍首相の第二の誤り:
政権担当経験がある野党を甘く見たこと

 実際には、安倍政権が野党の保守派と協議しながら国会審議を進めることはなかった。その根本的な原因は、4月末の首相の訪米、米議会での演説である。

 首相はこの演説で「今夏に安保法制を成立させる」と宣言した。本格的な国会論戦が始まる前に米国に法案成立を約束してしまったのだ。これが、「原理主義者」「ロボコップ」と呼ばれる堅物の岡田克也代表を完全に硬化させ、他の民主党の保守系議員たちをも大激怒させてしまった。彼らは、「安保法制の全てに反対ではないが、安倍にだけはやらせない」と言い放ち、安倍政権の安保法制に全面的反対の姿勢を取った。

 衆院での審議について、政府と野党の間で議論が深まらなかったという批判がある。だが実際には、「存立危機事態の定義」「存立危機事態認定のタイミング」「存立危機事態における武力行使が第三国に及ぶ可能性」「後方支援における自衛隊員のリスク拡大の懸念」など、野党の質問はどれも政府が答えにくい部分を突く、非常に厳しいものだった印象だ。政府はどれも曖昧に答えざるを得なくなった。安倍首相や閣僚の答弁は迷走に迷走を重ね、衆院での委員会審議は、100回以上中断してしまった。

 野党の質問が効果的だったのは、やはり「政権担当経験」を持ったからだろう。野党は、なにが政府にとって答えづらい、難しいポイントなのか、政府の立場を経験することでわかるようになっていたのだ。野党は、ストレートにそれらを政府にぶつけ続け、法案を徹底的に潰そうとした。これでは、政府はたまったものではない。

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第三は日本政治の歴史・文化を全く理解していなかったこと

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