2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻だが、約2年が経過した今も収束する気配はない。ウクライナを支援する側のNATOも、いまだに一枚岩になり切れていない印象だ。なぜウクライナ紛争は延々と続いているのか。NATOには今後、どんな立ち回りが求められるのか。政治学者が考察する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
「長いスパン」で見ると
ロシアはすでに負けている
去る3月7日、スウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)に正式加盟した。スウェーデンは200年以上にわたって「中立政策」を続けてきたが、昨今のウクライナ情勢を踏まえて方針を転換。2023年に加盟したフィンランドに続いて、32カ国目のNATO加盟国となった。
スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、ロシアとNATO加盟国が接する国境線の長さは、約1200キロメートルから約2500キロメートルへと拡大した。国境警備に関するロシアの軍事的負担が重くなったのは言うまでもない。
海上においても、ロシア海軍にとって極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼ全てNATO加盟国になった。ロシア海軍の活動も、今後はより厳しく制限されるはずだ(本連載第310回・p3)。
ただし、スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によってロシアが不利になることは、この2カ国がNATO加盟を申請した22年5月の時点で、すでに分かり切っていたことだ。
さらにいえば、そもそも東西冷戦終結後の約30年間で、NATOは東方に拡大し、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退してきた(第297回)。
このように「長いスパン」で戦局を捉えると、ロシアは極めて不利な状況が続いている。ウクライナ紛争の開始後、確かにロシアはウクライナの領土の一部を占領したが、「ロシアの勢力圏の縮小」という大きな構図は変わらない。だからこそ本連載では、ウクライナ紛争の開始当初から「ロシアはすでに負けている」と主張してきた。
一方、「短いスパン」で戦局を捉えると、紛争は膠着(こうちゃく)状態が続いている。23年におけるウクライナの反転攻勢は成果が乏しく、正規軍は壊滅状態で、NATO諸国などからの「義勇兵」や「個人契約の兵隊」で人員不足を補っていたとされる(第325回)。さらに24年に入ると、東部ドネツク州の激戦地アウディーイウカをロシアに制圧されてしまった。
なぜウクライナは、対ロシアで「圧倒的優位」の状況にあるNATOから支援を受けてきたにもかかわらず、苦戦を強いられているのか。