SNSでファンをビジネスに参加させ
一緒にビジネスを盛り上げる
五十嵐氏は、SNSを通じてアンバサダーを巻き込み、一緒に事業を盛り上げる「統合」戦略の重要性にも言及。その成功例としてイギリスの銀行ファースト・ダイレクトのケースを紹介した。
「同社では、ソーシャルメディアとも連携するコミュニケーションサイトを通じてクレジットカードやインターネットバンクの新しいデザイン案を公開し、顧客に意見を求めた。カードのデザインは不評で採用されなかったものの、顧客の声を聞き、意見に対応したことでファンが増えた。ツイッターやfacebookでの書き込みも前向きな声が増え、フォロワーが増える好循環を生んでいる」(同)
徳力氏も「自分の意見が採用されると『オレの証券会社』という意識が芽生える。そうなれば、単に取引手数料の安さだけで他社に乗り換えることも起こりにくくなる」と話す。
「それどころか、すすんで宣伝マンになり、好意的なクチコミをする好循環が生まれる」(徳力氏)とも。事実、岡三オンライン証券では、取引システム「岡三ネットトレーダー」を導入し、顧客からの質問や要望、それに対する回答(対応)をウェブに掲載するようにしたところ「ディープなファンが増えた」(白川理沙氏)という。
「相場急変などでシステムに負担がかかった時には、お客様がSNSなどで『どのプロバイダーやどの回線で、システムがどう稼働しているか』といった情報提供をしてくださるので、すぐに措置を講じることができ、助かっています」(同)
五十嵐氏は、「IT技術を活用した新たな金融サービス『FinTech(フィンテック)』は、金融サービスの構造そのものを変えるもの。サービスの提供の仕方を根本から見直す必要もある。ヨーロッパの金融機関はそのような視点でソーシャルメディアの活用方法を考えている。日本でもいまのうちから、その方法を考え、取り組みをはじめるべき」と述べた。
参加者からは「SNSの軸足を探しに来た」
「特異性を理解できた」などの声が
冒頭で述べたように、日本でのSNS利用率は6割を超えたところだ。20代、30代の利用率は高いが、40代では70.3%、50代は45.9%と年齢が上がるに連れて、利用率は下がる。だが、ファッションの流行が世の中の動きに敏感な若者から全世代へと広がるように、SNSの利用がネット証券の中心顧客層である年代に広がる可能性は高い。活用次第では、若い世代を顧客に取り込むことにもつながりそうだ。
そのためには顧客がどのツールを使っているのかを知ることも重要だ。一般的に言えば、ツイッターは20~30代が主流、facebookは40~50代、LINEは全般的。女性に人気のインスタグラムは写真なのでファッション誌的な使われ方をすることが多いという。徳力氏は「金融業界で使うなら匿名性のあるツイッターとの相性がいい。ただし年齢層が低いので、ターゲットとズレがあるかどうかなど模索していく必要はある」と語った。
参加者のひとり、楽天証券の水田英樹氏は、「NPS(ネットプロモータースコア)は社内に十分な経験があるものの、NPSが高いアンバサダーがどのようなきかっけで生まれるのか、ビジネスとどう相関があるのかなどに興味があった。そもそも証券というサービス自体、他人に勧めにくいもの。SNSに広告宣伝価値があまり期待できないのであれば、次の軸足をどこに置けばいいのかという問いに対する答えを探しに来た」と話す。
SBI証券の金田学氏からは「SNS利用については国内外を問わず成功事例を探している。この勉強会に参加し、金融から離れた業界関係者の客観的な見方を聞くことができ、参考になった。SNSの特異性や概念など大前提を改めて聞くことができたのも良かった」という感想が聞かれた。
「時々の課題に応じた勉強の場を提供し、
共にマーケット拡大に尽力したい」
なかでも好評だったのが、同業者であるHSBCやファーストダイレクトの事例だ。
「SNSは活用しているが、カスタマーサポートのツールとして活用することは考えたことがなかったので新鮮に感じた」(マネックス証券、宮本祐一氏)。
「ネット証券はお客様と直接会話をする機会がない。また、SNSとカスタマーサービスとの連携は以前から気になっていたが、具体的に進めるところまではいっていなかった。上手に活用していきたい」(GMOクリック証券、原好史氏)。
「お客様のサポート業務を担当した経験から、お客様の声を聞き、それを業務に反映する大切さは身に染みて理解している。そこにSNSをどう活かせるのかという話は参考になった」(松井証券、服部新也氏)など、次の一手につながる内容だったようだ。
トムソン・ロイター・マーケッツの富田秀夫社長は、「今回は、ネット証券マーケットの活性化にSNSをどう活用するかという新しい問題提起をさせてもらった。今後も時々の課題やトピックを取り上げる勉強会と交流の機会を提供することで、共にマーケットの拡大に尽力したい」と、今後の抱負を語った。