インスタントの袋麺市場に続く「第2のマルちゃんショック」と呼ぶべきか、発売から1カ月の出荷数が1200万食という驚異的な数字を記録した東洋水産の『マルちゃん正麺 カップ』。従来の常識を覆す麺のクオリティから、市場に大きなインパクトを与えている。それは食品業界に広がる“サードウェーブ”の一環にも位置づけられ、カップ麺の歴史に新しい章を加えようとしている。開発にかけた思い、今までどこも成し得なかった技術革新への挑戦など、誕生の背景を解き明かしてみよう。
すべては「マルちゃんショック」から始まった
日本発の食文化として世界中に浸透している即席カップ麺。安定成長を続けていた市場に異変が起こったのは2011年で、背景にはいくつかの要因が考えられる。リーマンショック(08年)、東日本大震災(11年)の影響を受けた景気の停滞、ここ数年の消費トレンドとなっている健康志向、PB商品の台頭による市場のコモディティ化等々。
どれもなるほど然りだが、忘れてはいけないのが、インスタントラーメンの歴史に残るイノベーションに端を発する「マルちゃんショック」である。
11年11月。東洋水産が発売した『マルちゃん正麺』は、生麺をそのまま乾燥させる特許製法(「生麺うまいまま製法」)により、歯切れの良いコシやツルンとした食感など、店で食べるラーメンを思わせる本格麺で大きな話題となった。
当時は「内食・中食志向」も食のトレンドとされ、節約しながら「家でおいしいものを食べたい」というニーズも高まっていた。家庭で手軽においしいラーメンを食べられる『マルちゃん正麺』は、そうした時代にぴたりとはまり、予想をはるかに超える大ヒットを記録したのである。
カップ麺に押され、インスタントの袋麺市場は長期低迷傾向にあったが、『マルちゃん正麺』の成功に他社も続いたため、市場は活気づき、スーパーマーケットなどでも袋麺が大きなスペースを占めるようになっていく。カップ麺から袋麺へ。そんな消費動線が生まれた結果、カップ麺市場の成長が鈍化したのだ。そんななか、「マルちゃんショック」の震源地である東洋水産は、「次の一手」に向けた新商品開発をスタートさせていた。
お湯を注ぐだけで、「ゆでたての麺」を実現するために
「カップ麺が踊り場的な状況にあることも、即席麺に対するニーズが変わってきていることも把握していました。さらに『マルちゃん正麺』を食べた方から、「おいしい! カップでもこういうものをつくれないか」「今までにないカップ麺も食べたい」という声をたくさんいただきました。そして始まったのが『マルちゃん正麺 カップ』の開発です」(加工食品事業本部 即席麺部 商品開発1課課長・神永憲氏)
スタートから約4年の歳月を経た10月5日、『マルちゃん正麺 カップ』は全国発売された。インスタントラーメンの歴史を変えたともいわれる『マルちゃん正麺』の名を冠するだけに、市場の期待は大きいが、食べて最初に感じたのはやはり麺。
歯応えのあるコシといい、ツルンとしたのど越しといい、ラーメン店で生麺からゆでたままのような食感は、従来のカップ麺の麺とは一線を画すものだ。期待にたがわぬ、というよりも、期待を超えるクオリティである。
「お湯を注ぐだけで、生麺からゆでたままのような麺を実現できなければ意味がないと思っていました。当然、従来のカップ麺の製法では実現できないし、『マルちゃん正麺(袋麺)』の麺をそのまま使ってもうまくいきません。ゼロからスタートさせ、技術者と一緒に試行錯誤の繰り返しでした」
そして生まれたのが、袋麺の『マルちゃん正麺』に続き、カップ麺の歴史でも新しい章のページを開いた『マルちゃん正麺 カップ』なのだ。