あまりの反響の大きさから、「限定発売」という苦渋の決断へ

 具材も「焼き豚の味がしっかり感じられる」と神永氏が語る豚バラチャーシュー、大きめにカットされた野菜など、スナック感覚のカップ麺ではなく、本格的な食事としてのラーメンといった完成度である。

【芳醇こく醤油】 濃厚なたまり醤油と濃口醤油を使用したうま味の強いスープに、具材は肉のうまみたっぷりの豚バラ肉チャーシュー。
【香味まろ味噌】 白味噌とポークエキスがベースの濃厚なスープに、具材は大切りのキャベツが入ったフリーズドライ製法の野菜。
【濃厚とろ豚骨】 コクのある豚骨スープに合う白く少し細めのコシの強い麺、具材は食べ応えのあるチャーシューにたっぷりのねぎ。
 

 カップ麺の常識を打ち破る麺を引き立たせるようスープや具材にもこだわっている。ラインナップは「芳醇こく醤油」「香味まろ味噌」「濃厚とろ豚骨」の3種類で、どれも自家製だしを使う。それぞれ、芳醇なたまり醤油と濃口醤油を合わせたスープ。白味噌をベースに、にんにく風味の香味油を加えたスープ。ガーリックなどの香辛料でバランスを調えた、コクのある豚骨スープが使われている。

 発売後の反響はどうなのか。神永氏にうかがうと、「期待と不安が半々でしたが、期待をはるかに上回る売れ行き」だという。予想とは桁が違うほどの数字でもあり、いかに市場が『マルちゃん正麺 カップ』に期待していたかがわかる。「芳醇こく醤油」「香味まろ味噌」「濃厚とろ豚骨」のうち、「濃厚とろ豚骨」だけが「関西以西限定」となっているが、これは苦渋の決断だったそうだ。

「発売の目途が立った時点で、全国の営業マンを通じて流通各社に『マルちゃん正麺 カップ』を発売します、とご案内しました。ある程度の見込みはありましたが、返って来た数字を集計すると、とても当初の計画数量では間に合わないことがわかったのです。

 ありがたい限りですが、物理的に不可能なものはどうしようもありません。そこで、予定していた発売日を1カ月遅らせると同時に(9月7日から10月5日へ)、豚骨スープに合わせて白く、細い麺を使う「濃厚とろ豚骨」だけを限定販売とさせていただきました。いろんな方面にご迷惑をおかけしてしまいましたが、なるべく早い段階で、全国のお客様にすべての味を楽しんでいただけるようにしたいと思っています」(神永氏)

『マルちゃん正麺 カップ』が拓くカップ麺の未来

 期待値が高いだけでなく「間違いなく売れる」と関係者は確信していたのだろう。その読みの通り、東洋水産の主力商品『赤いきつね』『緑のたぬき』『麺づくり』などに比べると、やや高めの価格設定(希望小売価格「205円」)ながら、10月5日の発売当初から売れ行きは絶好調。10月31日までの出荷量は1200万食という驚異的な数字を記録した。これは、コスト増でも原料と製法にこだわり、本格的な味と嗜好性の高さで人気のビール、コーヒーなど食品業界に広がる“サードウェーブ”の一環ともいえそうだ。カップ麺の市場はきっと、『マルちゃん正麺 カップ』から新たな局面に向かうだろう。

「シェア争いをするよりも、今までになかった商品を提供することで、新しい食シーンを創造していきたいと思っています。従来のスナック的な位置付けに加えて、おいしいものを自宅で手軽に食べたいとき、手に取ってもらえる“食事”としてのカップ麺。『マルちゃん正麺 カップ』が、そんな食シーンを新しくつくるきっかけなってほしい。「おいしい」という笑顔と結びつくカップ麺であってほしいと思います」(神永氏)

 今回、新たな製法を確立し、製造設備を一新したことで「今後の商品開発の幅は間違いなく広がった」と神永氏は言う。東洋水産はきっとまた、「今まで体験したことのないおいしさ」で我々を驚かせてくれることだろう。