安倍政権は新成長戦略の柱である「ローカル・アベノミクス」において、地方と中堅・中小企業の活性化を日本経済底上げの絶対条件と位置づけた。中小向け支援策も打ち出されているが、旺盛な成長意欲を持つビジネスオーナーたちがいま何よりも渇望しているのは、自社の成長への道筋をはっきりと描くことだろう。その答えを探るため、インバウンド、ロボティクス、アウトバウンドをテーマに、それぞれの代表的なプレーヤーに話を聞く「未来をつくるイノベーション」シリーズ。第1回は、Peach Aviationの井上慎一代表取締役CEOとマツモトキヨシの成田一夫社長に「観光立国日本のいまとこれから」について聞いた。

それでも日本は観光後進国

 2003年に小泉政権が初めて「観光立国戦略」を掲げて以降、観光産業は常に日本の新たな重要産業と位置づけられてきた。特にインバウンドは、航空や鉄道などの交通、観光施設、宿泊施設、小売、飲食と裾野が広く、雇用面での影響も大きい。国内需要が縮小するなか、何とか外需を取り込もうと期待が寄せられている。

 中国をはじめとする東アジア諸国の経済成長に加えて、ビザ発給要件の緩和や大規模な訪日プロモーションの実施といった官民一体の取り組みが功を奏し、東日本大震災の影響で落ち込んだ2011年以降、訪日外国人観光客数は着実に増えている。今年は過去最高を記録した2014年の1341万人を大きく上回り、1900万人に達すると見込まれている。2020年までに2000万人を超え るとした政府の目標は、大幅に前倒しして達成されそうだ。早くも観光大国の仲間入りをしたかのようなムードも一部にはあるが、そもそも2000万人という目標値は妥当なのだろうか。

 2010年から2050年までの40年間で日本の総人口は3000万人減少すると予測されている。ざっくり言えば日本人の4人に1人がいなくなる計算だ。そう考えれば、2000万人や3000万人といった低い目標で満足するべきではないだろう。

 2000万人という数字が観光立国と呼ぶにふさわしいものかどうかは、世界の国々と比較すると明らかだ。2014年現在、日本の外国人観光客数ランキングは世界で22位にとどまっている。宿泊施設や観光バスの不足、英語をはじめとする各国言語による観光案内や標識の不足といといった、受け入れ体制の改善 の必要性も指摘されている。こうして見ると実体はまだ観光後進国、せいぜい中進国といったところだろうか。

 本物の観光先進国はというと、外国人観光客数ランキング1位はフランスで8370万人。2位はアメリカの7470万人で、以降、スペイン、中国、イタリアと続く。地続きの欧州からの旅行客を呼び込めるフランス、スペイン、イタリアや、国土面積が圧倒的に広い米中と比べて不利な点があるのは確かだが、さまざまな顔を見せる自然や豊富な観光資源を持つ日本のポテンシャルを考えれば、トップ5に割って入るのもけっして不可能な話ではない。