沖縄で夕張メロンを買う外国人を笑うな

 マツキヨが行ったアンケート調査からは、中国人買い物客の手堅さも浮かび上がる。彼らが買い物リストを作成するにあたって重きを置くのが口コミ情報だ。訪日経験者やツアー仲間の生の声をSNSなどで収集する。その一方で、商業広告はほとんど参考にしない。

 商品を選ぶ基準も、安心・安全、品質、機能性と至ってオーソドックスだ。爆買パワーに注目が集まりがちだが、最も信頼のおけるルートから得た情報で商品をきっちり評価する中国人買い物の本質は堅実性にある。

 成田社長は「手強い彼らに訴求するうえで欠かせないのがジャパンクオリティだ」と指摘する。サービスという形がないものでジャパンクオリティを味わってもらえるにはどうすればいいか。成田社長は常にその方法を考えている。「メーカーはもちろん、航空会社や宿泊施設といった他の事業者、国や自治体とも連携が必要。商品だけでなく日本らしさや伝統をあわせて訴求することで、日本での滞在と買い物の楽しさを存分に味わってもらえるようにしたい」と意気込む。

 ただし、そのジャパンクオリティは日本人が考えるものとは必ずしも一致しない。先入観を捨てて外国人観光客の行動や声を収集、分析して、彼らが本当に求めるものを知る必要がある。これがマツキヨとPeachの両社が揃って挙げた、インバウンドをバブルに終わらせないための2つめのポイントである。

 Peachの井上CEOは、中国人観光客に人気の沖縄土産が夕張メロンであることを例に挙げた。「北海道と沖縄の両方を周るツアーは少ない。沖縄の海は見たいけれど、中国でも最高級品として知られる夕張メロンも買って帰り家族や親戚に食べさせたい。そんな旅行者にとって、朝どれメロンが北海道から空輸されて沖縄で買えるのなら、こんなにありがたい話はない」。

 言われてみれば日本人もパリでボルドーのワインを味わい、ニューヨークでフロリダのデズニー・ワールドのグッズを買っている。ましてや経済成長で海外旅行に出かける機会が増え始めた中国からの旅行者なら、限られた日数であれもこれも楽しみたいと考えるのは当然のことだろう。沖縄で夕張メロンを買うのはおかしいというのは日本人の勝手な思い込みで、それで外国人が喜ぶのなら、できるだけ新鮮で高品質のメロンを用意するのも立派なもてなしだ。

データが教える本当のジャパンクオリティ

 どこに行って何を見たいのか。買いたいもの、食べたい食事は何か。どんな体験やサービスを期待しているのか。こうした外国人観光客のニーズを正しく知りたいなら、彼らの率直な声や実際の行動から収集されたデータに真摯に向き合うしかない。

 そのためにマツキヨが力を入れているのが、データベースマーケティングである。国内ではポイントカードや公式アプリを介して収集される3700万人の会員データを分析し、ワン・トゥ・ワン・マーケティングと店舗とネットを融合させたオムニチャネル化を進めている。

 インバウンド向けの会員制度はいまのところないが、免税手続に必要なパスポート情報と購買データをかけ合わせることで、いつどのような顧客に何がどれだけ売れるかといったことの分析が可能になる。もともと国内用につくったLINEの公式アカウントに海外から友達申請する外国人も増えていて、専門チームによる解析も行っている。

 2015年5月からは官公庁が中心となり、外国人観光客がTwitterやWeiboで発信するつぶやきから興味のあるものや満足度を分析したり、携帯端末のGPS機能を使った行動分析を行う試みも始まった。インバウンドにおけるビッグデータの活用は今後ますます本格化していくと予想される。

 ただし、どんなに大量のデータを緻密に分析しても、結果を見る目が曇っていては意味がない。導き出された答えが日本人の予想と食い違ったとしても、それが顧客の求めるものならば素直に受け止めるだけだ。ジャパンクオリティの押しつけで過剰品質に陥った製造業の轍を踏んではならない。

当記事は、アメリカン・エキスプレスとダイヤモンド社が共催するビジネスフォーラムからのスピンアウト企画です。

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