マツキヨの好調はインバウンドが支える

マツモトキヨシ 代表取締役社長
成田一夫
1950年生まれ。北海道大学経済学部卒業後、1974年日本リクルートセンター(現:リクルートホールディングス)入社。日本のフランチャイズ企業の創業期におけるFC事業に関わる。その手腕をを買われ、2002 年靴のマルトミ(現:ワンゾーン)代表取締役CEOに就任。民事再生の適用を受けた同社の企業再生を果たす。そして2004 年マツモトキヨシ入社。専務取締役を経て、2014年代表取締役社長就任。免税店拡大、無料Wi-Fi提供を積極的に行い、訪日外国人ニーズに確実に対応。マツモトキヨシは日本のインバウンドビジネスの最前線に立っている。

 LCC就航によるインバウンド需要の恩恵を、最も多く受けている業界の1つがドラッグストア業界だ。マツモトキヨシの成田一夫社長も、「LCCの影響は大きい」と感謝を惜しまない。

 2014年10月から、食品、飲料、薬品、化粧品などの消耗品が免税対象になってから特にその影響が顕著だ。昨年度の外国人観光客によるインバウンド売上高は2012年度のおよそ5倍だが、免税対象拡充後の今年度第1四半期は実に10倍にまで伸びている。小売事業全体の1割をインバウンドで売り上げるという目標の前倒し達成も射程圏に入ってきていて、マツキヨにとってインバウンド消費の行方は経営を左右する要因になりつつある。

 ただ、その購買行動は独特で、日本人顧客向けのマーケティングや在庫管理はそのままでは使えない。たとえば売れ筋商品だ。ドラッグストア業界ではポイントカードなどを通じた購買データの分析や新商品の発売動向などから、いつどんな商品がどの程度売れるかを予測して在庫管理や品出し陳列に生かす。

 ところが外国人観光客、特に中国人観光客にはこれが通用しない。定番人気を誇る商品もあるが、日本ではマイナーな商品がある日突然売れ始めたかと思うと、翌日からは指名買いをする客が殺到する。1人で大量購入することも多く、あっという間に販売店はもちろん、問屋やメーカーでも欠品するケースは時折ニュースでも伝えられている。

 店舗での行動もユニークだ。大勢の外国人観光客を乗せた観光バスが到着すると、まずは各自散らばってあらかじめ調べておいた目当ての品を探し、誰かが見つけると店内にその情報が行き渡り、一気に人が集まって、ほぼ全員が同じ商品を買い物かごに入れる。

 こうした独特の購買行動を可能にしているのは、出国前に時間をかけて練り上げた買い物リストである。どこで何を、いくらで買うかがあらかじめ決まっているので、ぶらりと店内を回って見る必要がないのだ。

 成田社長も「とにかく外国人観光客、特に中国からの買い物客は情報網がすごい。9割は訪日前に何をどこで買うのか、写真入りの買い物リストをつくっているし、訪日後も情報を逐次更新している」と舌を巻く。