2014年は、“デジタルマーケティング(DM)元年”といわれた。しかし、DMの神髄がどこにあるかについては、十分に共有されていない。システム設計者としてDMの先端的な実践に関わってきた経験から、企業におけるDMの狙いと推進体制についての考えを述べる。
デジタルマーケティングは
販売チャネルではない
アドビ システムズ
アドビ グローバル サービス統括本部
コンサルティング サービス本部
シニア コンサルタント
大手航空会社のシステム開発会社に入社後、予約システム等の開発を担当。その後ウェブサイト分析ソフト開発のオムニチュアに入社。2009年にオムニチュアをアドビ システムズが買収し、現在はアドビ システムズのコンサルタントとしてデジタルマーケティングの戦略立案に関わる。
デジタルマーケティング(DM)についてのさまざまな取り組みを支援させていただいているが、日本企業におけるDMの重要性に対する認識は、世界でも特異な状態にあると申し上げてよい。DMに関心が高いか低いかのレベルを問う前に、DMを認識しているかしていないか、ゼロか1かという状態にある。DMを認識している企業は、自社への効果を厳密に検証したり改善を重ねている。一方、認識していない企業の取り組みはまさにゼロである。
情報システムやマーケティングなどの現場担当者から相談があると、まず経営管理層に時間をいただいてDMの現状を説明するところから始めている。DMは、一口で言えば、自社のホームページ(HP)などを活用して販売増につなげたり、お客さまの本音、ニーズ、評価、期待などを探ろうとするものだ。HPが単なる企業紹介の「Webサイト」に留まっているケースはまだ多いし、自社HPで販促活動を行っている企業でも、「販売チャネルが1つ増えた」ぐらいの認識に留まっているケースが多い。
しかしITの進化によって現在は、「一貫してお客さまの動向をとらえ、企業とのコミュニケーションを充実させるようにしよう」という領域に入っている。これがDMといわれるものだが、そこまで踏み込めている企業は実に少ない。
データ・ドリブンのための
「デジタル・レディネス」
ITの進化に伴う「データ・ドリブン」という考え方は、「データは活用できる」という強い思想をベースに、データによる各種の課題探索だけでなく解決策まで探り、それをHPのリニューアルなどを通じて具体化していくものだ。マーケティングであるならば、従来は「机上の空論」と一蹴されてきた分析や取り組みアイデアに、具体的な根拠と実現可能性を提供する。それは言葉を換えれば、マーケティングの原理・原則に立ち返り、実現したかったことを実現できるようにすることだ。DMでは、消費者やお客さまの動きを、パラメーターとしてとらえ、心理学や行動経済学の理論的支援も得ながら、よりコミュニケーションを深めるための施策を打つ。