なぜ日本でも
CMOが増えているのか
経営者が直接マーケティングに関与する動きは、欧米ではかなり以前から進んでいる。たとえば、欧米企業の重要な経営職の一つにCMO(最高マーケティング責任者)というものがあるが、CMO研究の第一人者である一橋大学の神岡太郎教授によると「米国ではフォーチュン500企業の62%がCMOを置いている」という。
CMOは、経営者の右腕として企業全体や事業ごと、ブランドごと、製品ごとのマーケティングを統括する役割を担う。その責任と権限は非常に大きく、欧米企業では、次の経営者候補としてCMOが抜擢されるケースも多い。
残念ながら、現在日本でCMOを置いている企業は全体の5%にも満たないと思われるが、各種調査やヒアリングによって着実に増えていることは実感している。そうした企業は、経営者がマーケティングに関与することの重要性を十分に理解しているようだ。
では、なぜ日本でも経営者が直接マーケティングに関わる動きが広がっているのか。一言で言えば、市場のグローバル化、ビジネスモデルの変革、組織の細分化など、時代の大きなうねりや構造の変化によって、顧客の真の姿が見えにくくなっているからである。
単一市場で限られた製品やサービスだけを売っていた時代とは大きく変わり、異なる価値観や文化を持った多様な市場のニーズに合った製品やサービスを提供していかなければならない。しかも、国・地域ごとのリサーチや営業戦略を個別に推し進める一方で、統一的な国際ブランドも形成していかないと、世界の競合との戦いに勝ち抜くことは困難だ。
こうした変化とともに、マーケティングを専門部署や広告代理店などに任せっ切りにするのではなく、経営者が直接マーケットを見て、状況を把握し、それに基づいて意思決定をすることが避けて通れなくなったのである。