社員の顧客意識を高めるには
まずトップが範を示すべき

 第1に、自社のマーケティングの定義と役割を決めること。事業の細分化やM&Aによって、マーケティングに関する全社的な共通認識や共通言語が失われている会社は多い。これなどは、トップダウンだからこそ解決できる問題だろう。

 第2に、企業自体のブランド力を高めること。あらためて言うまでもない課題ではあるが、グローバル化や事業の多角化が進む中で確固たるブランド力を形成するには、全体の意思統一を図るトップのイニシアティブが欠かせない。

 第3に、戦略分野、リスク分野にメリハリをつけながらマーケティングに関与すること。箸の上げ下ろしまで細かく指示する必要はないとしても、事業の要となるマーケティング活動については、「アクティビストCEO」のように積極的に関与するのが望ましい。

 第4に、社員の顧客志向、市場意識を高めること。実はこれは、経営者自身がマーケティングへの関心を深めることで自然と高まる傾向がある。他愛もないと思うかもしれないが、休日には妻とバスや電車で出掛け、スーパーで買い物をして、日常生活の中からマーケットの変化を感じることがその第一歩となる。

 市場の動きに敏感な経営者から発せられた言葉は、内向きな社員の意識を変えて、顧客志向や市場意識の高い「戦うマーケティング集団」が形成されるはずだ。

 第5に、そうしてマーケティング意識が高まった社員の中から、必要に応じて自分の右腕となるCMOを任命すること。社内にふさわしい人材がいなければ、外部から登用する方法もある。

 大きな責任と権限を与えてCMOを抜擢すれば、マーケティング重視の姿勢が社内により明確に伝わり、次を担う人材の育成にも結びつく。

 そして第6に、経営会議において参加する役員にマーケティング意識を植えつけること。たとえばパナソニック創業者の松下幸之助氏は、各部門から新製品などの社内稟議書が上がってくると、「それで松下の利益はどのくらいになるんや」に加えて、「ところでお客さんは喜びますか」「喜ぶというんやったら、どういうところで喜ぶんやろか」と質問を繰り返したという。

 トップがマーケティングに積極的に関与することは、役員や社員に意識・行動改革を促す起爆剤となるのである。

(構成・まとめ/渡辺賢一 撮影/有光浩治)