BtoBのメーカーが消費者と直接接点を持ち、満足度や収益性の向上を図るのは容易ではない。そこで、ガス器具大手メーカーのリンナイは、「交換部品ECサイト」の運営を通して新たなマーケティングを始めた。ここから得たデータの分析は販促や製品・サービスの改善などに活用され、着実に成果を上げているようだ。
自宅コンロのメーカーを
知っているのはわずか2割
福本啓史氏
「R.STYLE」の推進リーダーである福本啓史氏。手前のシルバーのガスコンロは、高級ガスコンロ「デリシア」。ウェブマーケティングに力を入れている。リンナイ本社(名古屋市)のショールームにて撮影
古くなって汚れたキッチングリルの受け皿だけを取り替えたい――そんな主婦たちに、今注目されているのがリンナイのECサイト「R.STYLE(リンナイスタイル)」だ。ガスコンロ本体の販売はせず、グリルやごとくなど消費者が自分で交換できる部品だけを取り扱う。その狙いは、ネット販売による売上拡大ではない。福本啓史・リンナイeビジネス推進室室長は次のように話す。
「一つはブランド価値の向上です。ガスコンロは生活に密着した製品でありながら、実は自宅のコンロのメーカーを知っている人は2割に過ぎない。これではいくらよい製品を開発しても、10~15年後の買い替え時にリピートしてもらえません。これまで以上に消費者がみずから情報を収集して商品を選ぶ時代になってくるので、名前を印象づけること、つまりブランド力のアップが非常に重要になってきます」
もう一つは、BtoBビジネスから一歩踏み出し、消費者との直接的な接点をつくること。「顧客と直接つながる機会を増やし、ブランド価値を高めながら、顧客との良好な関係を築いていく」のが目的なのだ。
R.STYLEは2006年10月にパイロット稼働し、09年2月から本格的にスタートした。ただ、交換部品はそう何度も繰り返し購入してもらえるものではない。そのため、掃除用品やお手入れグッズ、キッチン・調理用品などもラインアップに加え、お手入れ情報やレシピなどオリジナルコンテンツの提供にも力を注ぐ。魅力的なメニューで顧客をつなぎ止め、製品のリピート購入につなげようというわけだ。
本格稼働後、会員数や交換部品販売のEC化率は急拡大。現在、会員数は15倍の33万人、交換部品のEC化率は8%から20%に上がっている。
データ活用も進み、2009年11月に「CRMベストプラクティス賞」(産学協同による顧客分析実験モデル)、2014年11月には「CRMベストプラクティス賞・大星賞」(顧客分析の継続全社展開モデル)と、CRMの賞を2度獲得した。