ネットの登場によってビジネスモデルが最も大きく変化したといわれる航空会社。全日本空輸(ANA)は、航空券予約のほとんどがウェブに移行する中、さらなる売上拡大を目指してデジタルマーケティングの強化に乗り出した。デジタル上のコミュニケーション戦略を考え、マーケティングの成果につなげていく新たな挑戦が始まっている。

国内線チケット販売の
約9割がウェブに

全日本空輸 マーケティング室 マーケットコミュニケーション部 リーダー 冨満康之氏

 トライベック・ブランド戦略研究所が発表した「ウェブサイト価値ランキング2015」(『週刊ダイヤモンド』15年8月29日号)で、ANAは3年連続総合1位となった。番付けのもとになったのは、一般消費者向け(BtoC)の企業ウェブサイトや企業アカウント(SNSなど)を通したオンライン上の企業活動の成果を金額換算したもの。同社が3年連続トップに輝いた背景には積極的なネット活用があった。その歴史を遡ってみよう。

 まず、1995年に日本の航空会社としては初のウェブサイト(現在のANA SKY WEB)で独自の情報サービスを開始。97年には航空券予約システムをいち早く導入した。その後、2000年以降のインターネット(PC)の普及に合わせてウェブサイトの機能を強化。これが第1段階の進化だ。

「航空会社の場合、売っているものが座席というデータなので、もともとネットとの親和性が非常に高いんですね。2010年代前半までは、使い勝手のよい予約機能をつくり込むことによって売上げを伸ばしてきました」と、マーケットコミュニケーション部の冨満康之リーダーは語る。続く第2段階の進化として、ケータイ、スマートフォンの拡大に合わせてモバイル対応を進めた。

機能の追求だけでは
売上げは伸びない

 現在、ウェブ販売の売上高は年間5000億円弱にも及んでいるが、徐々に伸びは緩やかになってきた。

「以前は、チケット予約のユーザビリティを向上すれば、売上げが増えるという時代でした。しかし、いまや航空券予約のほとんどがウェブに移行し、予約機能の改善だけでは大きな売上増加は見込めません。2~3年前からウェブの役割は単なる予約受付から、お客様とのコミュニケーションを図り、新たなサービスを提供するツールという位置付けに変わってきています」