参入障壁という強固な壁に囲まれ、競争と無縁だった電力小売り。だが、次第に壁は撤去され、ついに今春には一般家庭向けも自由化。私たちの暮らしはどう変わる?

 電力小売りの完全な自由化まで、いよいよ秒読み段階となってきた。これまで一般家庭向けの電力小売りは、各地域の電力会社が独占してきた。だが、2016年4月1日以降は全面的に自由化され、既存の電力会社とさまざまな新規参入組との間でし烈な顧客獲得競争が繰り広げられるのは必至だ。裏返せば、私たち消費者はそれらの中から、自分自身の判断でこれぞと思うところを自由に選択できるようになる。

し烈な電気料金の
値下げ競争は必至

日本総研
創発戦略センター
シニアマネジャー
瀧口信一郎氏

「電力小売りの自由化は00年3月からスタートしており、当初の対象は特別高圧区分の大規模工場やデパート、オフィスビルでした。そして、04年4月、05年4月と段階を踏みながら、自由化の対象が中小規模の工場や中小ビルへと拡大。07年には低電圧区分(一般家庭向け)まで対象を広げる予定だったものの、競争活発化の気配がうかがえなかったことから延期になりました。しかし、東日本大震災を機に全面自由化の機運が再び高まってきて、この春から実施されることとなったのです」

 こう説明するのは、エネルギー政策に精通している日本総研創発戦略センターの瀧口信一郎シニアマネジャーだ。すでに年初早々から各社が事前受け付けをスタートさせており、電話やDMなどを通じた勧誘活動にも熱が入っている。当然ながら、電気はどこから買っても質は変わらない。だとすれば、値段が安いところを選ぶのに越したことがないと大半の人が考える。

「値下げ競争が激しくなって、消耗戦が繰り広げられる可能性が考えられます。相応の体力が伴っていない会社には、厳しい戦いとなってきそうです」(瀧口シニアマネジャー)

 金融など、他の分野で自由化(規制緩和)が進められた際と同様、競争に負けて撤退する会社も出てきそうだが、誤解してはならないポイントがある。瀧口シニアマネジャーは説明する。

「電力の供給は、(1)発電、(2)送・配電、(3)小売りの3部門に分類されます。このうち、(1)は(3)に先駆けてすでに参入が全面自由化されていますが、(2)は安定供給のため、小売りの全面自由化後も各地域の電力会社が担います。従って、仮に契約を結んでいた小売業者が撤退しても、電力の供給が途絶えるということはありません」

 また、小売事業者が必要な電力を調達できなかった場合も各地域の電力会社がその分を補うので、停電に見舞われることはない。さらに消費者保護の観点から、少なくとも20年3月まで、政府の規制に基づいた現状の料金メニューも、各地域の電力会社が継続して提供する。