グローバルでの資金の流れを正確に把握している日本企業は少数派だ。大半の企業は、資金面での非効率を抱えている。改善のカギを握るのがTRM(Treasury and Risk Management)/GCM(Global Cash Management)システム。この分野で豊富な知見を持つ3人のプロフェッショナルが語り合った。
グローバル化の進展により
複雑化したおカネの流れ
代表取締役
長﨑一男
長﨑 本日は、企業の資金管理に詳しいお2人の専門家にお集まりいただき、課題と解決策を議論したいと思います。まず大垣さんは1990年代からすでにグローバル資金管理の必要性を提唱されていましたね。
大垣 90年代半ば、当時勤めていた銀行の顧客である大企業の連結の資金状況を調査したことがあります。3ヵ月間、約1000社のグループ企業に毎日、銀行口座の残高などを報告してもらいました。その結果、グループ全体で平均残高が数百億円、銀行への手数料だけで年間数億円という無駄に気がつきました。
長﨑 その気づきによって、「キャッシュマネジメントをどうすべきか」という議論が始まったのではないでしょうか。
さて、そこから20年が経ちましたが、日本企業の現状についてはどのように見ていますか。
大垣 グローバル企業における、グループ内のおカネの動きは非常に複雑になりました。かつてはタイの工場、シンガポールの販売会社というように単機能でしたが、いまでは製造と販売など複数の機能を持つ現地法人が増えました。海外企業を買収すれば、グループ内にフルセットの機能を持つ企業が加わります。こうして、グループ全体の資金管理が従来以上に難しくなっているのです。
長﨑 企業のCFOと日常的に接している伊藤さんは、現状をどう見ていますか。
伊藤 たしかに関心は高まっていますが、キャッシュマネジメント強化のためにTMS等を導入した企業は、ほんの一握りです。豊富な手元資金を持ち、銀行借入も低利で行えるため、コストや導入負荷をかけてまで、キャッシュマネジメントを強化する必要性を経営陣から理解を得られないと聞きます。
長﨑 トップダウンでなければ、なかなか前に進まないということでしょうか。
伊藤 一般的に、財務部門は大きな予算を持っていないため、導入のための予算承認が大きなハードルになります。逆に、トップが明確な目的意識を持ち、トップダウンで動いている企業が、取り組みでも先行していると思います。