クラウドの普及で下がった
投資判断のハードル
長﨑 財務人材の育成やレベルアップは重要な課題だと思います。一方、トップが前向きでも、経営会議でTRM/GCMの有用性をきちんと説明できなければ止まってしまう可能性もあります。
たとえば、当社クライアントである海外企業のCFOは、運転資本を数百億円減らして資金効率を高めました。ボードに対しては、「運転資本削減分の社内の資本コストが8%。×8%で数十億円のコスト削減」と説明したそうです。これに対して、日本では低金利の資金調達コストと比較されがち。同じことをしても、それがコスト削減として認識されにくい現状があります。
大学院 法学研究科 教授
金融・法・税務研究センター長
博士(法学)
大垣尚司
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長などを経て現職。
大垣 別の観点ですが、財務などのスタッフ部門に投資するという発想が日本企業にはもともと希薄です。しかも、TRM/GCMの投資対効果を事前に算出するのは非常に難しい。実際に導入してみると、先に挙げたメーカーのようにいろいろな無駄が見えてきて、対策を打てば効果も表れます。しかし、グローバルでのおカネの流れがつかめていない中で、投資を判断するにはトップの覚悟のようなものが必要になります。
長﨑 テクノロジーの進化、クラウドの普及などによって、以前と比べれば初期投資を抑えた仕組みづくりが可能になりました。
大垣 導入時のコストを大幅に削減できることは、重要な変化ですね。社内での事前の説明ははるかに容易になるはずです。
長﨑 グローバルでのおカネの流れをまず可視化する。では、その次に何をするか?この点についてはいかがでしょうか。
伊藤 TRM/GCMは、グループ全体の財務情報の一元管理に加え、統一システムによる標準業務オペレーションにまで利用することをコンセプトにすべきと思います。導入の目的が本社からの可視化だけだとするなら、導入自体の意義を再検討すべきです。
長﨑 導入目的の設定に関して、大垣さんはどのようなご意見をお持ちですか。
大垣 TRM/GCMをROA、さらに企業価値の向上に結びつけた議論がもっと必要だと思いますし、CFOにはそうした視点が欠かせません。ただ、その意識は日本企業では弱い。ここは、大きな課題だと思います。