グローバル経営における
迅速な意思決定の基盤

 経営情報集約の要としてSAPが提唱するのが「SAP S/4HANA Finance」である。SAP S/4HANA Financeは財務会計分野の基幹システムとして機能するだけでなく、SAP製品にこだわらず既存の基幹システムのすべての会計明細データを蓄積し、リアルタイムに活用するための基盤となる。

 たとえば、数億件の会計明細データを保持しているSAP S/4HANA Financeに、1つの売上データが新たに加えられたとしよう。どこかの支店でそのデータが入力された瞬間、本社が参照するグループの売上数値は更新される。本社は現場の状況を瞬時に吸い上げ、見える化することができるのだ。

「SAP S/4HANA Finance上には複数の管理エンジンが搭載されている。経営指標管理や連結管理、グループ資金管理、グループ予実管理、コンプライアンス管理など。これらの管理エンジンを組み合わせることで、見える化のレベルを格段に高めることができる」(関口氏)

 リアルタイム経営へのステップを進むうえでは、一歩一歩という姿勢が肝要だ。言うまでもなく、システム以外の面でも取り組むべきことは多い。たとえば、KPI体系の整理やマスターデータの整備だ。

「経営層やマネージャー、現場担当者など、それぞれの役職、ポジションによって参照すべきKPIは異なる。しかし、それらのKPIはつながっていなければいけない。たとえば、CFOが見るROA(総資産利益率)の値には、生産や販売の管理者が参照している在庫のKPIが反映されている必要がある。SAP S/4HANAを活用すれば、CFOはROAから各拠点の在庫まで簡単にたどることができるが、そのためには、『KPIツリー』をきちんとデザインし体系化しておく必要がある」(関口氏)

 既存システムはそのままにしながら、明細データまでたどれる経営情報基盤はつくることはできるが、リアルタイム経営に近づけるためには、業務プロセスの標準化も並行して進めていくべきである。その道のりの途上で既存システムを更新するタイミングが来たとき、順次オペレーションをSAP S/4HANA Finance上に切り換えていくことができれば、リアルタイム性をいっそう高めることができる。