2016年3月、エプソンは2025年に向けた新長期ビジョン「Epson 25」を発表した。そこに込められた思いやビジョンステートメント、4つのイノベーションに村上龍氏が迫る。セイコーエプソン株式会社、代表取締役社長 碓井稔氏との特別対談が実現した。

エプソンが提供する「省・小・精の価値」

村上
わたしは、多くの経営者と対談してきて、その企業の本質をつかみ、分かりやすく伝えることには多少慣れているはずですが、エプソンは、いろいろな意味で特別で、全体像を把握するのが難しいと思いました。そもそも、BtoBとか、BtoCとか、そんなカテゴライズ自体が無意味です。プリンターだけとっても、ホームからオフィス、商業用・産業用と幅広い。
技術はいずれも先端的で、将来的な可能性が非常に大きく、さらに領域が多岐にわたり、相互に関連しています。エプソンの技術、企業ポリシーが、今後、社会をどう変えて、どういう影響を与えるかをイメージすると、SF小説や映画を超えている気がします。
 今回発表された2025年に向けての長期ビジョン「Epson 25」では、ビジョンステートメントとして「『省・小・精の価値』で、人やモノと情報がつながる新しい時代を創造する」と掲げられています。「省・小・精の価値」とは何なのでしょう。

セイコーエプソン株式会社
代表取締役社長 碓井 稔

碓井
エプソンは昔から環境というものに思い入れが強く、「省」エネの追求はあらゆる製品のベースになっています。また、同じ性能なら「小」さく作ろうというのは、腕時計に発する文化だと思います。高「精」度というのもエプソンが追い求めてきたもので、プリンターでいえばインクを高い精度で、正確な量を飛ばす、つまり省・小・精というのは私たちが伝統的に追求してきた技術そのものです。

 

今回、あえて「省・小・精の価値」と表現したのは、単に技術を追求するのではなく、本当の意味で世の中の人々を幸せに、豊かにしていこう、自分たちはそのために存在しているのだということを、より明確にするためです。

村上
技術の革新にとどまらず、それによって社会がどう良くなるのかに重点を置くということですか。

碓井
そうです。ご指摘のように、エプソンにはいろいろな技術があるのですが、ともすれば自分たちの興味本位であったり、競争相手には負けたくないという気持ち、1番になりたいという気持ちで技術開発に取り組んできたところがあります。結果としてうまくいったものもあります。しかし会社そのものの価値を考えると、エプソンの原点は、今よりもっと豊かで創造性あふれる社会を作り上げることにあります。そんな自分たちの目的をもう一度、みんなで意識しようということです。省・小・精の技術を極めることをベースにしながら、自らの力で社会の期待感を感じ取って最終的な製品を作っていく。全てそういうコンセプトで製品づくり、価値づくりをやっていくという意味では、非常に分かりやすい会社だと思います。

村上
PaperLab(※)などは、そのシンボリックな成果ですね。開発者の方に「こんなすごい機械をどうやって作ったんですか」と聞いたら、「難しいだろうなと思って開発したら、できてしまいました」とおっしゃっていました。
※PaperLab…エプソンが開発中の使用済みのオフィス用紙から新しい紙を生産することができるオフィス向けの製紙機

碓井
プリントで創造的なものを作り出すというのは、人類が育んできたテクノロジーであり文化です。これをもっと時代に即したかたちで、環境に優しく、かつ低コストで実現するにはどうしたらいいか。その答えのひとつがインクジェットのプリンターでした。ただ究極を目指すなら、森林資源を使って作る紙に関しても、もう少し違うかたちで関与することができるのではないか。PaperLabはそこからスタートしました。