4つのイノベーションの実現

碓井
何でもかんでも自分たちでやろうというわけではないのですが、高い志で世の中を変えたいと思ったら、あちこちから技術をかき集めてくるのでは無理だと思います。プリンターであれば、インクジェットのヘッドを作り上げる。プロジェクターであれば、精度の高い耐久性のあるディスプレイを作り上げる。それらは貴重なノウハウと技術者たちの血のにじむような努力があってかたちになっているのです。人々に喜びをもたらす価値を作るという志を、最後まで責任を持って全うしようということです。

村上
単なる組織論とはもちろん違いますし、「垂直統合」という既存のかたちがあって、それに当てはめるというものでもなく、ビジネスモデルというか、統合システムであると同時に、エプソンの、ポリシー、フィロソフィーのようなものでもあるんですね。「Epson 25」には、4つの領域を中心にイノベーションを推し進めるとあります。具体的にはどういうことでしょうか。

碓井
まずプリンティングの領域では、インクジェットでイノベーションを起こし、高い生産性を実現するとともに、高い環境性能と循環型の印刷環境をお客様に提供することで、創造性豊かな環境に優しい社会を作っていきます。オフィス分野ではセットでPaperLabのようなものを提供していきます。ビジュアルコミュニケーションの領域では、マイクロディスプレイとプロジェクションの技術を極めることで、ビジネスと生活のあらゆる場面でビジュアルイノベーションを起こします。プロジェクション技術を使うことで、例えば、今ここでハワイに行った気分になりたいと思ったら、瞬時にハワイの太陽と青い空が出てくるような映像体験ができるんです。スマートアイウエアを使った拡張現実は観光サービスなどで使われ始めています。

村上
外国人観光客がそのスマートアイウエアをかけて、日本のプロ野球を観戦すると、ゲームを観るのを中断することなく、戦況や選手情報が、その国の言語で表示されるという試みがすでに行われているんですね。驚きました。

碓井
3つ目はウエアラブルの領域でのイノベーションです。エプソンは、私が普段つけているものから、ランナー用にGPS機能がついたものまで、ありとあらゆる時計を作っています。社内にある独自の技術を融合することで正確な時間の提供とセンシングに磨きをかけ、個性あふれる製品を創造し、身につける人が喜びを感じられるような価値を提供していこうということです。そしてもうひとつがロボティクスの領域でのイノベーション。基本原理的には、動力源と見たり感じたりする力、そして知能があれば、自律的なロボットが実現するはずです。エプソンが培ってきたさまざまな技術を使って、ものづくりの現場はもちろん、あらゆる分野で、ロボットが人々を支える未来を実現したいと思います。

村上
4つのイノベーションは、別個のものではなく、横断的な部分があるようですね。しかも技術のみならず、創業時から脈々と受け継がれ、進化してきたエプソンの理念も含んでいる気がします。

碓井
ええ。エプソンが目指すのは「なくてはならない会社」になることです。そんな高い志を共有しながら、みんなで連携し、技術的にもお互いにシナジーを取って大きな価値を作り出す。そういう会社でありたいと思っています。