人材需給の合致、短期育成、業務効率化を同時に目指せ

 主として第1・第2の課題に関わることだが、2010年前後から、日本でもタレントマネジメントという言葉がよく聞かれるようになった。人材のブラックボックスに光を当てて可視化し、人材の需要と供給のマッチングを図ろうという考え方である。しかし、日本ではもっぱら供給面が重視されていることを、南氏は懸念している。

 「教育や研修といった人材供給の観点は重要ですが、タレントマネジメントにおいては需要の把握も欠かせません。事業計画に即して必要な人材が足りているのかどうか、量と質の両面における人材ニーズとの連動がないまま人材育成が行われているために、成果が見えてこないというケースも多いと思います」

 事業計画に人材を適合させるには、事業戦略を遂行するための組織のあり方、組織内のポジションごとの人材要件などについて、人事部門は深く把握したうえでゴールへの道筋を描く必要がある。

 また、供給の面ではさらなるスピードアップが求められていると南氏は言う。

 「需要に応じた人材育成を実行する際の問題は、そのスピードです。特に、海外ビジネスを任せられる人材が圧倒的に足りません。育成スピードを上げるためには、一定のポテンシャルを持つ人材を選抜し集中的に育て、思い切って配置するほかないと思います」

 多くの企業が、思うような人材育成ができずに悩んでいる。その1つの原因になっているのが第3の課題、複雑な人事業務にかかる手間だ。足元の仕事に手一杯なために育成だけでなく、トップや事業部門との連携、制度のデザインなど戦略的な取り組みが滞っているのである。

 「足元の業務、言わば『守り』の業務をシンプル化して人事部門のリソースを『攻め』に転じるべき。つまり守りと攻めを同時並行で進める必要があります」と南氏は強調する。

 そのためには、ITを強化し、人事情報を駆使することが欠かせない。たとえば、人材の需要と供給の情報をつなぐためには、事業部門の配置や組織計画、人材情報が一目で把握できる仕組みがなければ、いくら人事変革を叫んでも絵に描いた餅だろう。SAPは人事システムを構成するさまざまな機能を、顧客の求めに応える形で長年にわたって進化させてきた。