種をまく基礎研究がなければ、想像を超える大きな花は咲かない

~生命科学研究者支援プログラムを創設~

サントリー生命科学財団は、日本の基礎研究における危機的状況に一石を投じるため、2020年に生命科学研究者支援プログラム「サントリーSunRiSE」を創設した。同プログラムの運営委員の一人であるノーベル賞受賞者の山中伸弥教授に、基礎研究の重要性と支援の意義を聞いた。

「基礎研究と応用研究は車の両輪で、どちらが欠けても科学技術の発展はありません。基礎研究は種をまく研究で、応用研究は育ってきた芽を大きく咲かせる研究。オリジナリティーの高い応用研究をするためには、独創的な基礎研究が必要で、それがないと海外から種や芽を借りてこなければならない。大切なのは日本で種をまき、大きく開花させることだと思います」

 そう語るのは、iPS細胞研究所所長でノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥教授だ。

基礎研究でも研究費が
かさむようになった

京都大学iPS細胞研究所 山中伸弥所長・教授 1962年生まれ。東大阪市出身。神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て、93年に大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了。その後、米国グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任し、2010年から現職。06年にマウスの皮膚細胞から、07年にヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作成に成功し、新しい研究領域を開いた。これらの功績により12年に文化勲章、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

 今、日本の基礎研究は危機的状況にあるといわれている。特に次世代の若手研究者が基礎研究を行う環境が厳しく、将来ノーベル賞クラスの研究者が輩出されないのではないかと危惧されている。

 山中教授は、近年の基礎研究にかかる費用の増大もネックになっていると指摘する。

「私が大学院生の頃は、大学院生1人に1年で100万円あれば工夫して実験ができましたが、現在の基礎研究は分子生物学が中心で、ゲノム編集やビッグデータの解析が必須。高性能のコンピューターが必要になり、基礎研究であっても研究費がかさむようなっています。文部科学省の科学研究費(科研費)も増えていますが、研究にかかる費用の急速な上昇に追い付いていないのが実情です」

 基礎研究は“種をまく研究”であり、いわゆる萌芽的研究といわれる。どの種が芽を出して大きな花に育つかは、誰にも分からない。故に本来ならば、できるだけ多くの研究者を支援すべきなのだが、研究費が上昇してそれも難しくなっているのだ。

 山中教授も若い頃、基礎研究を続けることの困難さを体験してきた。米国のグラッドストーン研究所から帰国後の数年間は、基礎研究の環境や研究資金に恵まれず苦労したという。

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