新型コロナウイルスの世界的な流行は、現状の社会・経済秩序を抜本的に再構築する「グレートリセット」を迫っている。私たちの社会・経済活動の基盤である金融サービスも、新たな時代に合った変革を強く求められている。そこで、金融におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の課題、DXによって実現すべき新たな金融サービスの形について、日本発の変革創出企業であるRidgelinezの隈本正寛氏と松原義明氏に聞いた。

Ridgelinezの隈本正寛氏(左)と松原義明氏

金融DXの潮流は一過性ではなく、不可逆的なもの

――金融機関を取り巻く経営環境には今、どのような変化が起きていますか。

隈本 金融業界におけるDXのトレンドは、フィンテック(FinTech)の流れに端を発するものですが、これは一過性のものではなく、不可逆的な変化になっています。金融業界に限らず、もはやニューノーマルへの対応は不可欠であり、身をかがめていれば、そのうち嵐が通り過ぎるということは決してありません。

 グローバルで見ると、世界経済フォーラムが2021年の年次総会のテーマを「グレートリセット」としたように、新型コロナウイルスの世界的な流行によって、社会・経済秩序の再構築が迫られています。そうした中で、金融サービスについても新しい在り方を模索していくことが不可欠です。

 その一つが、サステナビリティ(持続可能性)に配慮した金融サービスです。グレートリセットの中でも企業の環境へのコミットが重視されており、金融サービスの提供に当たっても、今後はサステナビリティを含めた新しい価値観に対応していかなければなりません。例えば、投融資の基準を見直して、社会や環境にとってより良い事業の推進を企業に促したり、金融機関自身がカーボンニュートラル(炭素中立)を意識した事業活動を行っていくことなどが必要です。

 一方、国内における金融機関の経営環境を見ると、少子高齢化や人口減少などの人口動態の変化、地域間の格差拡大などの顧客構造の変化が生じています。長期的な低金利政策によって、金融機関の収益は低水準で推移しており、より踏み込んだ事業構造改革が求められています。

 それに追い打ちをかけるように、機能特化型のフィンテック企業やITジャイアント、あるいは隣接業界からの新規参入が相次いでおり、伝統的な金融機関のビジネスモデルは厳しい競争環境に直面しています。

――国内金融機関のデジタル対応の進展状況はどうですか。

隈本 新型コロナの流行下にあっても、国内の金融サービスの利用は依然として店舗中心で、モバイルをはじめとするデジタルの利用は、海外に比べて低調と言えます。昨年、われわれが実施した調査によると、クレジットカードや電子マネーといったカード決済の利用率は横ばいで、コード決済やタッチ決済などのモバイル決済利用率も微増にとどまるなど、キャッシュレス決済に向けた環境整備が進むものの、その進展度合いは緩やかであり、本格的な普及にはまだ時間を要するものと思われます。

 グローバルでは金融サービスのデジタルシフトが急速に進んでいます。米国全体でモバイルバンキングの利用率が前年比で30%上昇するなど、欧米ではコロナ禍でキャッシュレス決済の利用が急拡大しました。中でも英国はキャッシュレス決済が95%以上を占める中小事業者の割合が、10%から60%にまで上昇しています。

――欧米金融機関はコロナ禍の前から、デジタルシフトへの投資を進めていたということでしょうか。

隈本 そうです。なぜ、彼らがデジタルシフトに向けた投資を進めていたかというと、デジタル経由での金融サービスの利用が当たり前になることを前提にさまざまな仕組みを整備しておかないと、収益率が下がることが明らかだったからです。