奥田修司教頭
「『知耕実学』とは、本物に触れる体験から、自分の『知』を耕していくことを意味しています。体験から生まれた疑問に仮説を立て、確かめ、考え、自分の言葉や行動で表現することを大切にしています」。東京農業大学第一高等学校中等部の奥田修司教頭は、理念が目指すものをそう語る。
実際、授業や行事から、教員の専門や趣味を生かして放課後に開講する「一中一高ゼミ」まで、教科書だけでは得られない、経験の場があちこちに用意されている。例えば理科では、メダカの性別を教科書の図で知るだけでは終わらない。尾びれの組織をDNA解析して見分けるという。「教科書などの図で見ると、性別の違いが分かりやすく説明されています。でも本物のメダカは動いているし、傷を負った個体もいる。教科書通りではないことに戸惑いながらも、面白いと思うと、生徒は自分で深掘りし始めます」(奥田教頭)。
別の授業では、校内の雑木林でサンショウの葉をたたき、葉から漂う匂いを「植物の言葉」として教えていたという。「名前を覚える前に、匂いや形、似ているものに気付くことを大切にしていました」と、奥田教頭。同大学構内の発酵室で味噌(みそ)も作る。蒸し上がった大豆を手でつぶし、麹(こうじ)と塩を混ぜ、半年後の変化を待つ。「塩と麹しか入れていないのに、味噌の味ができてくる。これが発酵なのだと身をもって体験しています」。
手を動かし感じる体験が
「なぜ」の芽を育てる
実学は理科に限らない。国語の授業では、作品ゆかりの地を歩く文学散歩に出掛けることがある。作家がどんな場所に身を置き、何を見ていたのかまで想像するためだ。
こうした体験から芽生えた「なぜ」を、自分の研究テーマとして深めていくのが「課題研究」だ。教員も伴走しながら、中1から高1まで4年かけて取り組み、発表する。「BGMのテンポによって集中力は変わるのか」「優しいうそは本当に人のためになっているのか」「人はどのくらいまでのネタバレで映画を見たくなるのか」。文理を問わないテーマがずらりと並ぶ。
「本当にいろいろな子がいます。少し変わっていると思われるようなテーマも、面白いと尊重される文化が、本校にはあります」(奥田教頭)
大学レベルの研究に発展した例もある。有精卵をふ化させる「命の授業」に参加した生徒は、砕いた卵の殻を金魚のうろこの傷に塗った際の観察をきっかけに、卵の殻の成分や形成過程に関心を広げ、再生医療への応用を探る研究を続けている。東京大学の高校生研究員として、海中のマイクロプラスチックの除去方法を探る生徒もいる。
2026年秋には新校舎「知耕実学棟」が完成する。技術、美術、音楽、情報、調理、理科の実験室を集め、図書館も移す。「本に触れやすくし、手を動かす学びにつなげていく」と奥田教頭。知耕実学の学びは、生徒が自分の関心を信じ、進路を選び取る力へとつながっている。
東京農業大学第一高等学校中等部
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