やる気は、勉強を始めた後に出てくる

 多くの人は、「やる気が出るから、勉強を始められる」と思っています。だから子どもがやる気になるのを待ち、待ちきれずに「やる気を出しなさい」と言ってしまいます。

 でも実際の順番は逆なんです。

 勉強を始めるから、やる気が出てくる。

 心理学では「作業興奮」と呼ばれている現象です。手を動かし始めると脳が作業モードに切り替わって、続けるための意欲が後からついてくる。100年以上前から知られている、人間の基本的な性質です。

 大人でも同じで、面倒だと思っていた仕事に手をつけて10分もすると、いつの間にか集中しています。

 私の場合は、年末の大掃除がまさにそうです。始めるまではとても面倒に感じていますが、いざ始めてしまうと細かいところまで気になって、気づいたら何時間も経っていたりするんですよ。

 始める前の面倒くささは、始めてしまえば消えるものです。子どもの勉強も同じです。

東大生も「やる気」ではなくルーティンで勉強していた

 私自身、高校時代にやる気にあふれていた記憶はありません。ただ、勉強する時間と場所だけは決まっていました。朝は学校で予習、部活が終わったら学校の図書館、電車の中は暗記もの。家は休む場所と割り切っていて、勉強は一切しませんでした。

 時間になれば図書館に行き、座れば勉強が始まる。やる気が出るのを待った覚えは、正直ありません。

 うちの東大生メンターたちも同じで、高校時代の話を聞くと「やる気があったというより、毎日のルーティン(時間・場所・内容)が決まっていた」という答えがほとんどです。

 つまり東大生は、やる気で勉強していたのではなく、やる気がなくても勉強が始まる環境を先に作っていた、ということです。

「やる気を出させる」働きかけが逆効果になる理由

 やる気が結果だとすると、親が「やる気を出させよう」とする働きかけは、ほとんど空振りになります。空振りで済めばいいのですが、実際にはマイナスに働くことが多いのです。

 一つは、「やる気が出ないと始められない」という思い込みを、子どもに植えつけてしまうことです。「やる気あるの?」「やる気出しなさい」と毎日言われる子は、勉強はやる気が出てからするものだ、と無意識のうちに考えてしまいます。

 だから、やる気が出ない日は「今日は無理」と堂々と休むようになる。やる気を待つ人間を、親が育ててしまっているわけです。

 もう一つは、やる気を促す言葉が、子どもには監視の言葉として届くことです。「今日は何時間やったの?」「まだ宿題やってないの?」。親は励ましのつもりでも、子どもにとっては尋問です。

 こうやって何度も確認されるだけで、「自分は親から信頼されていないんだな」と親子間の信頼関係も崩れてしまいます。

 心理学の「自己決定理論」でも繰り返し確認されていることです。人が自分から動くには「自分で決めている」という感覚が欠かせず、親の管理や監視が強い家庭ほど、子どもの内側から出るやる気は下がっていきます。

伸びる子が持っているのは「意志の強さ」ではなく仕組み

 では、やる気の代わりに何があればいいのか。

 2,000人を見てきて、伸びる生徒に共通していたのは、意志の強さではありませんでした。決めたことが毎日勝手に実行される「仕組み」を持っていることです。中身は単純で、3つしかありません。

勉強する「内容・場所・時間」を先に決める

 一つめは、勉強する内容・場所・時間を先に決めてしまうこと。つまずくのは、勉強そのものより、その手前であることが多いのです。今日は何をやろうか、どこでやろうか、食事の前か後か。この小さな迷いを一つひとつ処理しているうちに疲れて、スマホに手が伸びます。

 「平日は19時から21時、図書館で数学」と決まっていれば、迷う余地がそもそもありません。

 実はこれ、心理学で最も裏付けの多い方法の一つです。「いつ・どこで・何を」の形で先に決めておくと実行率が大きく上がることは、「実行意図」という名前で、94の研究をまとめた分析でも確認されています。

 部活で帰りが遅い子は不利に見えますが、使える時間が限られている分、むしろ決めやすいものです。

 以前、週6日の部活で平日の勉強時間がほぼゼロという高2の生徒がいました。長時間やろうとしても無理なので、帰宅後に自習室へ「行くこと」だけを決めて、1時間から始めてもらいました。始める時刻さえ決まっていれば、あとは自然と続いていきます。

スマホは「我慢」せず、触れない環境を作る

 二つめは、スマホを我慢の対象にしないこと。我慢で勝てる高校生はほとんどいませんし、大人も勝てません。SNSや動画は、人の注意を引き続けるように作られているからです。

 一番楽なのは、物理的に触れない状態を作ることです。私がよく勧めるのは、帰宅したら親に預けること、そして決めた時間帯はアプリが開かなくなる制限アプリを入れることの2つです。

 実際に東大毎日塾でも、どうしてもスマホをやめられなかった生徒が、制限アプリを入れたことをきっかけに1日12時間勉強できるようになった例があります。本人の意志は何も変わっていません。環境が変わっただけです。

「人の目」を使えば、勉強を続けやすくなる

 三つめは、人の目です。やっぱり人は見られている方がやる気になります。

 「人によく見られたい」という気持ちは誰しも持っているからです。

 うちの塾生でこの気持ちをうまく利用している生徒がいました。

 自習室を普段から使っていたのですが、仕切りのある個別ブースを避けて、わざと周りから見えるオープンな場所を選んでいたのです。理由を聞いたら「見られていないとサボるから、常に人の目がある場所で勉強したい」と言っていました。

 こうやって、自分のサボり癖を理解して、その上で意志に頼らない仕組みに落とし込める生徒は伸びやすいです。

 東大毎日塾では、これを自宅でもできるようにしています。勉強を始めるときにメンターへチャットで「今からこれをやります」と送り、終わったら報告する。たったそれだけのことですが、学習が続くようになった生徒がたくさんいます。

 自習室の入退室記録と同じで、どれだけやったかが分かるし、強制力もつきます。何より「メンターさんに良い報告をしたいから頑張ろう」という気持ちが働くので、自然と継続できるようになるんです。

・勉強する内容・場所・時間を決める
・スマホは物理的にいじれない環境を
・人の目を入れる

 この3つのどこにも、やる気は出てきません。自然と勉強が続く環境を設定しているだけです。

親にできるのは、環境づくりのサポート

 まずは親が子どものやる気を引き出すことはできないと認めることからスタートしてください。その上で、親にできるのは環境を整えることです。

 例えば、

・明日「何時から」「どこで」「何を」やるかを一緒に決めてみる
・スマホの置き場所を家庭のルールとして決める
・夕食の時間を固定して、その後の予定を立てやすくする

 どれも地味ですが、やる気を出させる言葉より、ずっと行動につながります。

 ただし、順番があります。仕組みの中身を決めるのは本人です。親がルールを決めて守らせた瞬間、同じ行動が監視に変わります。

 「何時に始める?」「スマホはどうする?」と聞いて、本人が決めたことを親が支える。この順番を守っていると、子どもは少しずつ自分で決めて動くようになっていきます。

 ただ、決めた仕組みが崩れる日は必ず来ます。丸一日スマホで終わる日もあるでしょう。

 そこで「ほら、やっぱり」と言いたくなりますが、ここは我慢のしどころです。崩れた日を責められた子は、仕組みごと捨ててしまいます。

 週のどこかで戻ればいい、という扱いにしておけば、自分でズレを修正できるようになっていきます。

やる気は、始めた後についてくる

 やる気は待っていても出てきません。始めた後についてくるものです。

 だから親の仕事は、子どもにやる気を出させることではなく、やる気がゼロの日でも勉強が始まる環境を、本人と一緒に作ることです。

 環境づくりが上手くいかない場合は、学習管理型のコーチング塾を頼ってみるのも一つの手です。無料の個別相談をしている塾も多いので、一度プロに相談してみるのもいいと思います。

 やる気に頼らない環境が作れるよう、応援しております!